#04
今年一番のイノベーション、新作LED照明

マックスレイの照明器具ブランド「Ray」からは、デザイナーの山中俊治氏が手がけた「Eclipse(エクリプス)」が発表された。一見、ごく普通のシンプルなペンダントライトに見えるが、実はシェードの内側にあるべき「電球(光源)」がない。代わりにシェード自体が光って空間をやわらかく照らし出す。“Eclipse”とは、「日蝕」を表す言葉。下から見上げると、まるで真ん中が黒いダイヤモンドリングのような風景が忽然とあらわれる。

製品のコンセプトは「光源の不在」。強い光を放つLED電球の存在感を消して、やわらかく光を拡散させるために工夫を施し、日常生活の中で心地よく照明が使われることを目的にデザインされた。デザインイベント期間中の数ある製品発表の中でも、今年最もイノベーションを感じさせた「エクリプス」、その着想と製品化までの思考の過程を山中氏に聞いた。
― これまでさまざまな分野の製品をデザインされていますが、照明を手掛けるのは今回初めてだと伺いました。
そうですね。ヨーロッパのメーカーとお話ししたことなどはありましたが、商品化されるのは今回が初めてです。私自身はデザイナーとしていろいろなものをデザインしてきていますが、たとえばカトラリーや照明器具等はデザインしたことがないんです。というのも、自分が一消費者として何かを選ぼうとした時に、素敵なものがいっぱいあるなという場合は「僕は何もしなくていいかな」と思ってしまって。「まだあまり良いものがないな」と思ったときに、ムラムラとデザインしたくなるんですね。LEDの照明についてはいろいろ見てきていますが、まだ素敵なものが少ないなと思っていました。それで「やれることがあるかもしれない」と考えたわけです。

― コンセプトはどのように立てられたのでしょうか。
LEDという小さなデバイスが持っている利点について、まずはどんな活かし方があるのかなということを考えました。LEDって光源を見ようとするとまぶしいんですよね。それがまぶしくないようになってほしいなと思って… それが、まずひとつ。さらに、今回の「Ray」シリーズのコンセプトを最初にいただいたときに、“Made in Japanの光”であるということをまず考えたんですね。「日本の光とはどういうものだろう」とあらためて考えた時に、それは間接光、あるいは透過光だなと思い至りました。ふわーっとした和紙を通す光、あるいは直接ではない光。そういったものを活かしたいなと考えました。
思考の過程では、九鬼周造さんの『「いき」の構造』を読んだりして、江戸の粋、美意識とはどんなものだったんだろうなと考えていました。そして、直接は見せない感じ、どこかに隠れていて「ああ、光があるな」という感じを思い立ったんです。もしかしたら、いわゆるシェードの中にLEDランプを隠せば「電球がないのに間接光がある」ということにできるんじゃないかと。それで、実際に既製品のシェードを買ってきて、その中にLEDを仕込んだプロトタイプをつくってみて「けっこうこれはいけるんじゃないか」と。
― 実際に下から見上げてみると「あるべきところに電球がない」と、ちょっとした違和感とともに、新鮮な驚きを感じました。
おそらく横から見ているだけでは、なんということはない普通の照明に見えると思います。だんだん近づいていって、下から見上げたら「あれ、電球がない」ということになる(笑)。 実はこれ、真ん中に電球がないことによって、照明の高さを容易に変えることができるんです。真ん中を通っているワイヤーはスイッチではなく、照明器具全体が自在鍵のようなものでこのワイヤーにぶら下がっています。指でちょっと押してもらうだけで自在に変えられるので、高めに設置して部屋を広く照らしたり、低くして食事を演出するなど、いろいろなシーンで使うことができると思います。

― “ポスト電球時代”を象徴するような照明ですね。
まさにそういうことかもしれません。「光とは何か」というところから考えて、結果、平凡さと不思議さを併せ持つものになりました。実際には内側のアクリルと外側のシェードの間に隙間が出ないように、ぴたっと合わせてフチが通るようにするなど、制作上、難しい点はいっぱいありました。何回NGを出したか(笑)。そこはマックスレイさんの努力抜きには語れません。
― 内側に入っているLEDのランプはいくつあるのでしょうか。
10灯です。電力と熱と明るさのバランスを考えながら、最終的には10灯に落ち着いたんですけど、かなり試行錯誤は重ねました。ムラのない、ほわーっとした心地よい光で照らしたかったので、内側のアクリルの材質選びからランプとの距離などの細かな部分を、やわらかさと明度のバランスを考えながら決めていきました。アクリル部分は目の錯覚で薄く見えるかもしれませんが、実は3cmほどの厚みがあります。排熱についても、アルミの熱伝導を利用し、接触型で逃がしています。
― LEDの今後については、どのような考えをお持ちでしょうか。

LEDについては、まだ過渡期で未来に向かって改良の余地がありますよね。今はデザイナーたちもどう扱っていいかむずかしくて、扱いかねているというような状況だと思います。やろうとすると意外に制約が多くて、コストも高くなってしまう。でも、将来は必ずLEDでしょうね。かつては映画『2001年宇宙の旅』のように室内が全部発光していて、電球なんかぶら下がってないんじゃないかと未来を思い描いていた時代もありましたけれど、やっぱり今でもぶら下がっていますよね(笑)。人々は、そう簡単に自分たちの生活様式は変えないものです。そういうスタンダードな様式の中に、新しい使い方をちょっと差し込んでみるというのは大事なことではないかと考えています。それが“粋”ということなのかなとも思いますね。
- Eclipse(エクリプス)
- 価格:¥92,400(ランプ付価格)
- 電球:LED (電球色タイプ) 2.2W×10
- φ552×H138 引掛けシーリング(ワイヤーアジャスタ付)
- ブラックとホワイトの2色展開(鋼塗装仕上/乳白アクリル)
- http://www.ray-light.com/