Vol.160

秋のデザイン祭り、厳選報告。

#03

来日デザイナーInterview2 アンディ・クルーズ

midashi

グラフィック業界に携わる者であれば誰でも一度はその名を耳にしたことがあると言われるほど、今や世界的に有名なフォントデザイン会社となった「House Industries(ハウスインダストリーズ)」。デザイン祭りの期間中、アートディレクターのアンディ・クルーズ氏が来日。ハーマンミラージャパンとのプロジェクト、LTRT(イームズワイヤーベーステーブル)のアジア限定モデルについて聞いた。


― LTRTと言えば、ハーマンミラー社より1950年に発表されたチャールズ&レイ・イームズによる名作のひとつです。今回はそのLTRTにハウスインダストリーズの“イームズフォント”がプリントされるという夢のようなプロジェクトが実現したわけですが、きっかけについて教えてください。


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スタートは2010年、イームズオフィスとの初コラボレーションとなった「Eames Collection」の仕事でした。もともとチャールズ&レイ・イームズの大ファンだったこともありますが、イームズオフィスとの仕事を介してさらに作品に影響を受けました。サンタモニカのイームズオフィスで行った展示会で発表した「イームズフォント」「イームズ・ハウス・ブロックセット」など、イームズからインスパイアされたアイテムも製作しています。今回のプロジェクトは、去年来日した時に紹介があったことがきっかけで実現しました。ハーマンミラーストアのオープンを記念してハーマンミラー社のアーカイブスからインスパイアされた、「イームズ・ハウス・ブロックセット」を一緒に手がけたのですが、それがいつの間にか雪だるま式に大きくなって今回のこのプロジェクトへと発展しました。


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― 今回はLTRTの天板トップを40種類、すべて1台ずつのみのスペシャルエディションを製作されたそうですが、発表会の前だというのに、既に20台がSOLD OUTしたそうですね。


嬉しいですね。本国・アメリカより確実に大きな反響を感じます。もっと日本に来る機会を増やさなくてはならないですね(笑) 今回はそのスペシャルエディションの他にも天板トップ4種類のリミテッドバージョンも各50台製作しましたが、製作にあたってスタディーを繰り返せば繰り返すほどLTRTは完成度の高いテーブルだと改めて痛感しました。プライウッド、ワイヤーのベース、ストラクチャーの素晴らしさ… 元々好きで家にも10個ほど所有しています。寝室のナイトスタンドに使ったり、子供部屋において子供たちも常に愛用していたり。娘のバースデーには、そのLTRTを使ってティーセレモニーも開いたことがあります。一番に好きな理由はそのフレキシビリティなのだと思います。


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― そのように元々親しまれていたLTRTに、自身でプリントを施すことになったわけですから、相当なこだわりがあったのではないでしょうか?


そうですね。シルクスクリーンプリントに興味があって、今までも木にその手法でプリントを施した作品は多く手がけていました。それが今回のプロジェクトにもぴったりだと感じ、しかもイームズフォントをイームズのテーブルにプリントするわけですから、これほどの融合は無いと思えるような出会いだと感じました。あともうひとつおまけに言うと、LTRTという作品名もLETTER(文字)という言葉にシンクロしているようで、そんなちょっとしたことも嬉しい偶然に感じています。


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― 製作にあたって苦労した点は?


当然のことですが、より高い完成度を求めるために何度も試作を繰り返しました。特に、プリントは木を断裁したあとに施すので天板のエッジの部分からインクが流れてしまうのをどのようにしたら解決できるかを模索しました。最終的にはハーマンミラー社とともに印刷に耐えられるベニヤの素材で新たに天板を開発し、さらには防水性などにも考慮して仕上げています。まだディテールに関しては今後さらに発展させていくための開発を繰り返している最中です。ちなみに、アメリカでは中身よりもクレート(オリジナルで製作した運送用の木枠箱、左写真)が欲しいなんてことを言う人もいます。この木箱は松の木ですから、かなりゴツゴツとしたテクスチャーで、中のLTRTの滑らかな天板のテクスチャーとのコントラストもこだわりのひとつです。


― フォントづくりにおいては、手作業にこだわっていると聞きました。


ぼくがグラフィックの教育を受けた時代は、ちょうどトラディショナル(アナログ)な手法とMacintosh(PC)がちょうどクロスしている時期でした。当然、トラディショナルな手法を学ばざるを得なかったのですが、当時は自分も若かったので新しいこと:つまりMacintoshをもっと学びたいという気持ちの方が大きかったのは事実です。でも実際に大学を卒業してみると「Macintoshは誰でも使えるんだ」という事実に気づかされたわけです。そこで自分はトラディショナルな手作業こそが今自分が大事にしなくてはならないものなのだと感じて、アナログへと回帰するかたちで自分のスタイルを模索しはじめました。その結果、テクノロジーとハンドクラフトをひとつに融合した自分のスタイルに行き着いたんです。


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― 1つのフォントを起こすのに100枚近くのデッサンを描くそうですね。


どのくらいの労力がかかるかはもちろんフォントのタイプや仕事の目的によって違うのですが、オーガニックな書体のものであれば、線の流れはどうしようかとかなり模索を繰り返します。逆に、メカニカルな書体であれば作業はもっと早いですよね。しかし、自分がそうやって学んできたせいかもしれませんが、問題解決は紙の上でするほうが早いのです。ですから、細かなニュアンスを微調整する時は、まず紙の上で微調整したものを機械でスキャンしてリファイニングしていくという手法で行っています。

― 具体的にはどのように解決しているのでしょうか?


手作業で行う場合、ペンの傾きや筆圧によって線の太さやニュアンスが大きく変化しますよね。それは機械では表現することができないタッチなのです。でも、実際にフォントづくりにおいて何が一番大切かというと、オーガニックな感覚を大事にしながら、それをシステムとして使えるようにしなくてはならないということです。そこで我々が気がつくのが、印刷物よりもオンラインが優位に立つようになってメディアのあり方がどんどん変化している今の時代においても、人は読むという行為は続けていくということです。たとえスマートフォンであれタブレットPCであれ、読み易さであったり、どのような感覚で文字にアプローチしていくのかというプロセスは、より重要になってくるのだと思います。


― ハウスインダストリーのWeb上にあるトレイラーを拝見して、時代を巻き戻したかようなその制作風景が大変印象的でした。あのスタイルのルーツはどこにあるのでしょうか?


気づいた時には自然に行き着いていた手法だと思います。たとえばですが、ぼくらのフォントによく登場するピンストライプは、父から受け継いだものです。車のホットロッダー(Hot rodder)である父は私が子供の時からいつも車にピンストライプのレタリングを施してモノグラムを描いていました。父の時代から多くのものを学ぶ環境で育ってきたので、自分がパンクロックやスケートボードに夢中になり始めた時に、同時にグラフィックデザインの別の側面を見つけたのだと思います。それら10代の頃の体験が大きなインスピレーションの源となって、大人になるにつれ徐々に熟成されて今のスタイルへと定着していったのだと思います。


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― 「ホットロッダー」という職業は日本ではあまり馴染みがないのですが。


分かりやすい例で言えば映画「Cars」に出てくるような古いアメ車のカスタムカーのことをHot rodと呼ぶのですが、そのHot rodの装飾に携わる人たちを総称して 「Hot rodder(ホットロッダー)と呼ぶのです。父の会社は「Freehand Pin Stripe」 という名称で、ぼくは常にその父の仕事を通じてひとつひとつ手仕事で生み出して行くことの素晴らしさを知りました。

― 最近Web上でサービス開始した「フォトレタリング」について聞かせてください。


フォトレタリングとは1936年から97年までNYに実在した伝説的なフォントの会社です。アメリカの商業デザインが隆盛を極めた時代にもっとも早くに商業活版印刷、文字の図案化を実現して、その55年間の業績は6,500ものフォント、数えきれない飾り文字、とにかく僕らにとっては興奮せずにはいられない素晴らしい偉業です。しかし、彼らは1989年に廃業したのです。何が起こったかというと、世界中でデジタル化が加速していく中で、彼らは自分たちの作品をいっさいデジタル化しなかった。世の中の動きに完全に取り残されてしまったのです。結果、彼らのすばらしいコレクションは倉庫に眠ることになったのですが、ぼくらはそのアーカイブスに出会ったわけです。もちろん「これを眠らせておくわけにはいかない」と感じ、創業者からすべて買い取りました。そして、少しずつ自分たちの好きなフォントをデジタル化して、「ウェブで簡単に偉大なフォントを使ってオリジナルの文字を起こし簡単にダウンロードできる」という、今の時代に息づくフォトレタリングのサービスを開始しました。

― 誰でも7ドルで偉大なフォントが使用できるというのは、シンプルでありながらとても画期的ですね。


僕らがフォトレタリングでまず何がしたかったのかと言うと、「タイポグラフィーを買う」という行為に対して、その考え方自体を変えたかったのです。たとえば現実はこうです。イームズのフォントを買うには275ドルも支払わなくてはならない。でもデザイナーや学生は一回きりのプロジェクトにそんな大金を使うことはできない。自分たちの目的は、まずこのすばらしいフォントをもっと多くの人に使って欲しいということでした。ですから、僕らのフォトレタリングはそこまで厳密にライセンスのルールも設けていません。ただ、ここで作った作品で100枚以上のTシャツを作ってはいけないといった常識的なルールを2つほど設けているのみ。仰ったとおり、とてもシンプルで簡潔でクリーンなシステムです。


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ハーマンミラーストア

― 今後の活動についてお聞かせください。


コミッションワークはできるだけ沢山は手がけないようにと考えています。なぜなら、自分の商品を自分たちでデザインしたほうがすべてをコントロールすることができるので、とことん納得のいくものを追求するためにはそうしたいと考えています。ただし、今回のハーマンミラージャパンとのプロジェクトのように、我々自身が特別に熱い想いを抱いているテーマや題材に関してはこれからも積極的に参加していければとも思っています。将来的には僕らの活動をインテリアデザインや空間デザインなどにも発展させることができればと考えています。





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