Vol.160

秋のデザイン祭り、厳選報告。

#01

来日デザイナーInterview1 ショルテン&バーイングス

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期間中、日本初のショールームがオープンしたイギリスの家具ブランド、エスタブリッシュド&サンズ。オープンに際し来日したショルテン&バーイングスは、ステファン・ショルテン氏とキャロル・バーイングス氏の二人によるオランダのデザインスタジオだ。2000年の結成以来、装飾的なモチーフをミニマルなアプローチで解釈した数々のデザインを発表。2010年よりエスタブリッシュド&サンズからも作品を発表し、世界で活躍している。色鮮やかなカラーリングを特徴とし、オランダの文化的背景と歴史を入念にリサーチしながらも、二人の感性のフィルターを通し独自に解釈することでコンセプチャアルな作品を生み出し続けている。


― エスタブリッシュド&サンズとの出会いを教えてください。


ステファン・ショルテン: 2009年に「トゥルーリー・ダッチ(Truly dutch)」というオランダ伝統の家具をモディファイしたコレクションをミラノサローネで発表したときに、エスタブリッシュド&サンズのオーナーであるセバスチャン・ロングさんとアリスタンさんが声をかけてくれたのが始まりです。


― そのコレクションの作品のひとつでもある「Amsterdam armoir」について教えてください。


ショルテン: 以前、オランダの民族博物館から17世紀のオランダの伝統的な様式に沿ったコレクションをデザインして欲しいという依頼を受けました。その時に5つのアイテムからなるコレクションをデザインしたのですが、そのうちのひとつです。今回はエスタブリッシュド&サンズのためにマスプロダクションに近いかたちで発表しています。


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Amsterdam armoir(2010)¥1,620,150


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― 17世紀の様式はどのあたりに反映されているのでしょうか。


ショルテン: 装飾的な部分は取り除きながらも、サイズやディテールの点において当時のままに忠実に反映させています。ある意味「写し」のようなものです。ですので「トゥルーリー・ダッチ」と名付けました。17世紀において装飾はしばしば社会的なステイタスの象徴としてありました。一般市民は、日常使いの家具としてチープな素材の家具を使用していましたが、外観上にはゴージャスにみえる塗装を施していました。それを私たちはデジタルプリントなど現代的な手法に置き換えてデザイン上の遊びとして取り入れています。それと当時の人たちはカップボードの扉の内側に芸術家に絵を描いてもらい、日常の生活の中に芸術を取り入れるということをしていました。


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このカップボードにもアーティストの写真がプリントされているのですが、ここで私たちが何をしたかったかといえば、17世紀の人びとが芸術家とコラボレーションをしていたことを現代に蘇らせたいと思いました。ですが、現代ではデザイナーと芸術家の関係として、扉の内側という目には見えない部分の作品を依頼することにはとてもナーバスにならざるを得ませんでした(笑) それと面白いのが、カップボードの前脚がボールになっている点です。これにはねずみが登ってこないようにという衛生的な機能があります。それを私たちは以前にデザインしたガラスのジャグをそのままリサイクルしてつくりました。

私たちは、これまで手がけてきたアイデアをリサイクルするという手法を、自分たちのデザインプロセスとしてしばしば用いています。一番大切にしていることは、歴史を自分たちのコンテクストでもう一度咀嚼し直すことです。そこではサイズなど普遍的な要素はそのままでも、ほんの少し私たちなりの現代的な解釈を加えることで、これまでにないものを生み出すことができるのではないかと考えています。


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― そこで重要になってくるポイントは?


ショルテン: リサーチはものすごく大切です。リサーチを通じてそのものが伝統的に持っている色やかたち、使われ方を抽出することから始めて、それを自分たちのデザインのツールとしてアイデアをかたちにしていきます。

キャロル・バーイングス: オランダの民族博物館のコレクションを制作したときにも、伝統的なオランダ様式の家具をたくさん見ました。そのとき思ったのは、それらの家具の装飾がそのままでも十分に美しく、機能的につくられており、なおかつオランダ人らしいということです。

ショルテン: 現代ではオランダのデザインというと、ミニマルで洗練されたものを思い浮かべる人が多いと思うのですが、私たちとしては、オランダの伝統的な家具がもっている装飾的な背景を、自分たちのステイトメントを表現するうえで用いています。


― 今回の来日に合わせて白川郷保全プロジェクトのチャリティTシャツを手がけられていますが、これもある意味伝統に対するアプローチといった側面があるのでしょうか。


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白川郷再生チャリティTシャツ 限定200枚 ¥4,000(3タイプ / ツナサンド、べっ甲サングラス、切り株)

ショルテン: 今回私たちはチャリティプロジェクトのために自分たちのグラフィックを提供しています。白川郷の保全プロジェクト自体が、今あるものを保存するというより、未来に向けたアプローチであるという姿勢に私たちは共感しました。

バーイングス: 私たちのスタンスとして、世界中のどこに行っても歴史的に価値のあるものについては、自分たちにできることでサポートしたいと思っています。Tシャツの柄になったグラフィック自体は、エスタブリッシュド&サンズのコレクションのなかにもあるビュートという木箱に用いたモチーフを使用しています。柄にはそれぞれ、ツナとツリーとタートルがあり、タートルはべっ甲になり、ツナはツナサンドになったりと、それぞれの一生を現代的にシニカルにハンドドローイングで描いています。


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― ビュートについて教えてください。この作品には昔ながらの工芸のアプローチと物語性が共存していますね。


ショルテン: 私たちのスタジオのスタイルとして、かつてアーティストがアトリエで働いていたように、テストモデルを自分たちの手を動かしてつくりながら、デザインプロセスを考えるということを大切にしています。ビュートに関しては、プロダクトの上に自分たちのドローイングやストーリーをのせるという、とてもプレーンなスタイルとしてつくったところがあります。ビュートのアイデアの元になった木箱の原型は、その昔漁師たちが旅をするときに自分の持ち物を入れていた箱で、今でいうスーツケースです。漁師たちはそこに旅先でみた北極熊やクジラなどをペインティングしていたそうです。そこが私たちの制作プロセスと繋がっていると思いました。風刺的な意味合いとしては、最初にマグロのストーリーがあり、エスタブリッシュド&サンズでプロダクトをつくるときに、残りの2つのストーリーを考えました。マグロは現代のクジラだと思って描いています。


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Butte/Turtle,Tuna,Tree(2010)¥60,900〜


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バーイングス: 昔の芸術家たちは作品に直接絵を描いていましたが、私たちはインクジェットプリンティングの技術をつかってプリントしています。しかもプリントしていることが明らかにわかるような仕上げになっています。言い換えればそれは昔のアーティストたちが自分たちのアトリエにおいて手作業でやっていたようなことを、新しいテクノロジーをつかって再現することで、そのころのアトリエの風景を再現しています。

ショルテン: もし自分たちで一点一点手作業で描いていたら、この作品はアートピースになってしまうと思います。私たちはアーティストが用いるような表現を工業製品の手法で行なうことに、工業デザイナーとしての私たちの方法論、アプローチがあると思っています。


― ものづくりにおいてエスタブリッシュド&サンズとの出会いによって変わったことは?


ショルテン: 私たちが工業デザイナーとして仕事の依頼を受けるパターンには、2通りあります。コミッションされたものに対して、自分たちがどのようにレスポンスしてつくるか、ということがひとつ。もうひとつは自分たちでプロジェクトを起こすパターンです。私たちにとっては自分たちでプロジェクトを起こすときの方が結果的にうまくいくことが多いです。ビュートに関しても、エスタブリッシュド&サンズと仕事を始めた1シーズン目は、リミテッドエディションとしてはじめました。エスタブリッシュド&サンズは私たちにとって、自分たちが始めたプロジェクトに対し一番良い生産とプレスを行なうことのできる状況を作り上げる、プロデューサー的立場だと考えています。自分たちが考えたものを自分たちがつくったクオリティに近い形でより数を多くつくることができるようになったという意味でも、エスタブリッシュ&サンズとの出会いは大きかったです。

バーイングス: リミテッドエディションと量産品の違いは、当然ながら実際の手作業の量の違いでもあります。ですが手作業で作っていたものに近い形のクオリティが保てるのであれば、産業とコラボレーションをすることにはこれまでより多くの人たちに私たちのデザインを手に取ってもらえる、大きな利点があると思っています。


― 「Light」シリーズはグラデーションが美しいランプですね。


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Pink Light, Yellow Light ¥130,200

ショルテン: 通常照明は白であれば白と、均一な光でないと快適ではないのですが、私たちはランプに色を使いたいと思いました。そこで光には影響を与えにくいランプシェードの上の部分からグラデーションになるように私たちらしい色をつけています。

バーイングス: そうすることで照明をつけていないときにも特別な雰囲気が生まれると思いました。ランプはいつでもインテリアとしてそこにあります。そういった意味では24時間楽しむことのできるデザインにしたつもりです。

ショルテン: グラデーションはセラミックと同じ手法を使って、一点一点スプレーで着色しています。着色してから焼き上げるため窯から出すまで、最終的な色はわかりません。


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― 工芸の伝統的なアプローチと、クールなデザインのギャップが面白いと思いました。そのギャップはデザイナーとしての表現としてあるのか、それとも生産するための最適な方法としてあるのか、どちらですか?


ショルテン: 先日も京都に行ったのですが、手染めの技術など伝統的な手法というものはものすごく貴重でとても価値のあるものですが、どこの国においても近い将来なくなってしまうかもしれない技術です。ですが、私は工業デザイナーとしての教育を受けていますので、マスプロダクションにも興味があります。その相反する興味を組み合わせてデザインすることが私たちのスタイルになっています。


― お二人のデザインの特徴でもある鮮やかな色使いについて教えてください。特に家具やプロダクトデザインにこれだけ鮮やかな蛍光色を用いたものは少なく、はじめてみたときはとても驚きました。


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ショルテン: 私たちはデザインにおいて歴史的な背景をとても大切にしています。ですが、歴史的な家具は木材の色をベースにした茶色などとても地味なものが多いと思います。私たちは私たちの時代の現代的な家具をデザインするにあたって、今の時代をあらわすような蛍光色などの鮮やかな色を使うことによって、その歴史的な家具やモチーフにコントラストをつけたいと思っています。

バーイングス: それと通常と違うことがあるとすれば、色付けはプロダクトデザインを製造する過程では最終的なプロセスですが、私たちは色を単に製品のバリエーションのために構想するのではなく、デザインをする際の最初の段階からマテリアルとの関係性において考えています。たとえば、音楽であれば色々な音符を組み合わせていくことで調和のとれたひとつのフレーズが出来あがりますが、それと同じように色には国によって異なるさまざまな文法があると思っています。日本には日本の色使いの伝統があるように、オランダにも文化的な背景のなかで培われてきた色の伝統があります。それを私たちなりに変換させたり、異なるバリエーションで組み合わせることで、これまで見たことのなかった、使われたことのなかったような色の組み合わせができると思っています。


― 日本にも四季によって異なる美しい色彩の組み合わせがあります。その色使いを作品に取り入れるようなことはありますか?


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ショルテン: その点については、今回日本に訪れて今まさに有田焼のプロジェクトとして取り組んでいることでもあります。おそらく10年くらい前であったなら、四季がもつイメージは当たり前すぎて古くさく思っていたのですが、今や世界的な天候不順や温暖化の影響もあって、四季折々の色や風景といったイメージは逆に私たちにとってもとても大切なものになったのではないでしょうか。昔から人間が自然にもっていた四季折々の色やニュアンスを、今起きていることと組み合わせてプロダクトを通して考えていくことは、伝統的な色の捉え方とは少し違うかもしれないのですが、とても大切だと思っています。


― 有田焼のプロジェクトについて少し教えていただけますか。


ショルテン: 有田焼に伝統的に使われている200色以上ある色を抽出して、そのライブラリーを作り、それを自分たちでアレンジし直しています。私たちは伝統的な有田焼とは違った、もう少し抽象的なことをやろうとしているのですが、使用している染料や釉薬は有田のものですので、どことなく日本風にもみえるものができると思っています。そういった点でもユニークなものになるのではないかと思っています。他にも、エスタブリッシュド&サンズとも新しいプロダクトのプロジェクトが進行中です。日本の皆さんも楽しみにしていてください。





Established & Sons TOYO KITCHEN STYLE (エスタブリッシュド&サンズ トーヨーキッチンスタイル)

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