Vol.158

スタジオ アルクール パリとフレンチシネマ -77年の神話と軌跡

トップスターたちのポートレイトの競演



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ブリジット・バルドー(1954年)
セーヌ川の北岸に面したパリ8区に、1934年に誕生した写真スタジオスタジオ アルクール パリ」がある。当時、創設されたパリのスタジオで、唯一、今でも営業を続けているスタジオ アルクールは、77年の軌跡の中で、数多くの著名人、スターたちのポートレイトを撮影してきた。「フランスにおいては、スタジオ アルクールでポートレイトを撮影しないうちは、スターではない」とは、フランスの批評家、ロラン・バルトの言葉だ。フランス人なら知らぬ人はいないと言われるスタジオ アルクールは、油彩の肖像画にひけをとらない卓越した撮影技術で、数々の名作を生み出してきた。

東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールでは、「スタジオ アルクール パリとフレンチシネマ-77年の神話と軌跡」と題して、6月下旬から3週間にわたり、スタジオ アルクールで撮影された世界的トップスターたちのポートレイトの数々を展示。ここでは、スタジオ アルクールの副社長、カトリーヌ・ルナール氏のインタビューと会場の様子をまじえながら、お伝えしたい。


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©Mariko Tagashira




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ジャン・レノ(1997年)
- 今回の展示を拝見して、スタジオ アルクールのポートレイトは非常にオリジナルなスタイルで、それが脈々と今に引き継がれていることを実感しました。

カトリーヌ・ルナール(以下、ルナール):スタジオ アルクールはまるでひとりのアーティストのように、独特のスタイルを持っています。それは写真というよりも、光で彫刻をしていくような手法なんですね。この手法は、創設メンバーであるコゼット・アルクールによって確立されました。

- 「光で彫刻する」、それはまさに独特の照明テクニックによるものだと思いますが、そのポイントを教えていただけますか。

ルナール:ジャン・コクトーの映画『美女と野獣』に代表されるような、フランス映画の明かりと暗がりを効果的に配した白黒映画にインスピレーションを得た照明手法です。具体的には、弱いながらもたくさんの光源を使い、直接だったり間接だったりする照明をうまく組み合わせて、まさに光で彫刻していくような手法だと言えると思います。実はこの手法は、さらにさかのぼりますと、レンブラントの肖像画などで見られる、17世紀の絵画の技法、“キアロスクーロ”を応用したものだと言えると思います。

- スタジオ アルクールのスタイルを築き上げたコゼット・アルクールは、ココ・シャネルと同時代に生きた女性ですが、ふたりの面影はどことなく似ていますね。

ルナール:そうですね。自分自身の作品づくりに一生を捧げたという点で、彼女たちふたりのライフスタイルは似通っているかもしれません。コゼット・アルクールは当時としては非常に進歩的な女性で、タバコを吸い、オープンカーを乗り回し、経済的にも自立していました。ちなみに、ココ・シャネルは何度かスタジオを訪れてポートレイトを撮影したという記録は残っているのですが、残念ながら写真そのものは見つかっていません。


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マリオン・コティヤール(2010年)
- フランスではスタジオ アルクールでポートレイトを撮影するのが、ある種の社会的ステイタスであるといわれています。実際にスタジオ アルクールでポートレイト撮影をするには、だいたいどれくらいの時間とお金が必要でしょうか。

ルナール:トップスターたちの写真とは別に、匿名の一般の方々のポートレイトを撮影させていただくことで、私たちのスタジオは成り立っています。その昔、アンディ・ウォーホルが「将来、誰もが十五分間は世界的な有名人になれるだろう」と言いましたけれど、スタジオ アルクールではそれ以上の時間、スターになれますよ(笑)。スターと同じように、世代を超えて時を超えた芸術作品をつくりあげるのです。

具体的には、メイクやポーズの練習などを含めた撮影に要する時間は2時間くらいで、お値段は1500ユーロほどかかります。出来上がりにはだいたい3週間ほどかかりますが、スタジオ アルクールから出て行く作品はスターのものであろうとなかろうと、すべてナンバリングが施されています。

たとえば、20代の頃にスタジオ アルクールで撮影した写真を祖母が孫に見せて、写真撮影を孫にプレゼントするようなこともよくあります。スタジオ アルクールのポートレイトは、家族の中で受け継がれ、大切にされているのだと思います。




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アラン・ドロン(2011年)
「写真界におけるスタジオ アルクールの作品は、ファッション界におけるオート・クチュールに相当する」と語るのは、自らのポートレイト撮影を経験したリシャール・コラス氏(シャネル株式会社日本法人代表取締役社長)。自分自身がどこから来て、どこへ向かっていくのか-- 自らの軌跡と、家族の絆があらためて見直されるこの時代に、あらためて写真の持つパワーを感じさせる、力強い展示となった。



取材/草野恵子