Vol.158

3.11とクリエイティブ

震災後にアーティストが考えたこと 鴻池朋子×八谷和彦 ミヅマアートギャラリー対談

midashi
鴻池朋子展「隱れマウンテン 逆登り」3月9日〜4月9日 ミヅマアートギャラリーにて開催

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画面やある空間の中で独自の世界を想像し、私たちに新しい世界への扉を開けてくれる。アーティストとはそんな存在である。4月8日。東日本大震災から約一ヵ月、そんな時にアーティスト鴻池朋子と八谷和彦によるトークショーが行なわれた。これは、3月9日から東京・市谷のミヅマアートギャラリーにて開催されていた鴻池朋子展「隠れマウンテン 逆登り」の関連イベントとして予定されていたトーク「焚書となった『すばらしいせかい』」である。当初は鴻池朋子さんが長年あたためてきた新刊『焚書 world of Wonder』の発売を記念し、絵本にまつわるトークをする予定だった。

しかし、展覧会が始まって3日目で震災が発生。ギャラリーでは作品であるふすまが落ちてきた程度で、幸い観客、スタッフともにけが人もなかったという。その日から10日間ほど休廊し、再び展覧会は開かれた。対談相手のアーティスト八谷和彦さんは、原発事故の影響を受けて、全国の子どもがいる親たちのために、子どもに現在の状況をどう伝えるかということをtwitter上でスタートした。それが「うんち・おならで例える原発解説」である。

このツイートは瞬く間にRTされていき、ほぼ24時間以内に数ヵ国語に翻訳され、アニメーションまでつけられて、国内外に広まっていった。その波及スピードはすさまじかった。きっと、皆がそのような情報を求めていたのだろう。いくら学者が難しい言葉で正確なことを論じようが、その言葉が一般化されていなければ市民には伝わらない。「うんちとおならのイメージになっては……」と八谷さんは言うが、そういうことができるのがアーティストであり、この活動はソーシャルアートと言えるだろう。その後、状況はますます深刻化しているので、この解説では足りない、気休めだという多数の意見も出ているが、公開された日にこの解説で救われた人は少なくない。八谷さんもその後つぶやいているが、あくまでこれはいちアーティストによる子どものためのひとつの見解なのである。どう捉えるかは、その人次第なのだ。

震災後に、アーティストとして、一人の人間としてそれぞれに動き出した二人が、何を感じ、何を考えたのか。対談を抜粋して掲載したい。




鴻池 : 地震の当日は、ふすまが落ちてきたそうです。でも、ふわーっとランディングしたので、誰もケガはなく。ケガ人がいなかったのが本当によかったと思いまして。作品のことなんかまったく考えませんでした。震災後はすぐギャラリーはクローズして、余震も続いていましたし、一応絵は下ろしました。すごく不思議な個展でした。個展はいつでもできるのでそんなにがっかりはしていませんが、そんな状況ではないですし。このトークショーは、本の出版記念に合わせて、絵本の話をしようと思っていました。『焚書 World of wonder』は、2008年くらいから時間をかけてつくっていた作品で、その後本にするために紆余曲折があって。ようやく出たと思ったら震災で、日本の製紙工場が壊滅的な状態ということもあって、本の出版が遅れることになりました。(現在は販売中)そんなところに、友だちから八谷さんの原発くんのURLが送られてきたんですよ。


八谷 : 僕も震災後は、何も考えられない状態になっていたので、あれをやったという側面もありまして。地震の当日は北海道にいたんですよ。いまロケットを作っていまして、そのリハーサルで、下がぬかるんでいるところを歩いていて、どうも歩きにくいなあと思っていたら、地震で地面が揺れていたんだということに気づいたんです。北海道も結構揺れました。その後twitterを見たら、東京は大変なことになっている。東京でそんなに揺れていて、北海道でもこんなに揺れてるなんてちょっとヤバいんじゃないのと思って。デマもいろいろ流れましたから。でも、北海道はそんなに揺れていないから、次の日打ち上げられるかなと思っていたら、津波警報が出て全員退避になってしまった。ロケットを残したまんま、その場から避難しました。電話は通じないし、状況がわからなかったのですが、東京に戻ってきていろいろ見ていたら大変なことになってると。奥さんはおびえてるし。同時に原発がすごい状況になっていたので、これはせっかく理系だしでも原発のことはよくわからないけど、でも調べて安心させようとツイートしたんです。そうしたら、あっという間にアニメーションができて、英語・ドイツ語・フランス語版と… 自分が作品を作る時にはもっと考えるんですけど、あれは反射で作ったというか。来たボールを打ったような感じで、人として作ったというのが大きいです。


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鴻池 : 何か行動を起こして、それが正しいって言うことよりも、その気持ち。なにがどうなっているんだろいうっていうことを一番簡単な興味を持つアイテムで知らせてくれたのがよかったんだと思う。それがモノを作る時のスタンスなんだなと思いますよね。トークをお願いしますという話をしたときに、八谷さんは「僕は東北の地酒を飲んで、みんなをハグしたい(僕だけでいいですけど、鴻池さんがいやだったら僕だけでやります)」と書いていて。普段、私はハグとかするタイプではないんですが、でも今回はそうですねとお返事しました。

八谷 : その時は本当にみんな心細い気持ちだったので、そう書いていたんだと思います。でも少しだんだんと平常モードになってきましたよね、でも昨日も余震がきましたし、まだ原発の問題は終わっていません。

鴻池 : 何かこのイベントのマークが必要だなと思ったんです。最初はミミオに赤十字のマークをいれてミミオエイドにしていたんですが、友人に聞いたらエイドはあまり使わないと。今回の場合は、エイド(援助)というレベルを超えていたからです。それで何にしようかと考えていた時に、八谷さんから「みんなをハグしよう」のメールが来まして。それでHUG JAPANにしたんです。その後ミミオの絵で作ったマークを玩具デザイナーの先輩にトレースしてもらったり、ロゴを考えたりというのが1、2日の間にトントンとミミオ図書館のシステムもメール上の打合せで決まっていって。その周りの知人友人の素早い動きを見ていて、デザインとか仕事ってこういうことだな、こういうもの作りはすごくいいなって思ったんです。


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鴻池朋子「隱れマウンテン 逆登り」
八谷 : それはアートなのではないでしょうか。アートって対価のない仕事っていうのが根源にあったような気がして。アーティストの原点がそこにあるような気がしました。僕もハグってメールした後に、すごく照れたんだけど。孫さんみたいに100億寄付とかできないし(笑)。でも、できないんだけど何をやるっていったら。そういうことなのかなって。遠くの人たちは寒くてお腹減っているという時に、自分は何もできない無力感みたいなものはすごくあったんですけど、でも自分ができることをするしかないよねって思いました。

鴻池 : 正直、私も何もできない自分がすごく歯がゆくてしんどかったんです。でも、八谷さんからのメールを見た時に、ハグするとか人のことを思うとか、普通にそういうことをしてもいいんだと思って。それやりましょうっていう思いになったんです。八谷さんに投げ掛けたっていう私のディレクションは間違っていなかった。

八谷 : 作品の見え方がずいぶん変わりましたね。印象的なテキストが描いてありましたね。変わった文章を見せていただいて、すごくいい文章だったなと思います。


八谷 : 仙台に行ってきたんですよね。それはどういういきさつだったのか教えてください。


鴻池 : 3月の下旬頃に、仙台でアート系のイベントをやっている会社の方が仕事の関係で東京に来られていて、ミヅマでスタッフの方に震災の状況をお話されていたそうなんですね。その際に、今の状況をぜひ見て欲しいという打診されまして、即答で行きますと答えました。ですが、夫には大反対されて。この時期に、そんなに軽々しく東北の地へ行くことに対して怒られましたね。でも絶対帰ってくるという約束をして向かいました。私はわりと考えずに行動してしまう性質なんですが、自分が思っているよりも大変なことなんだなと思いましたね。


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鴻池朋子「隱れマウンテン 逆登り」
八谷 : フットワークの軽さって大事だと思いますよ。阪神淡路大震災の時はボランティアが余って問題にもなっていたから、それもあって尻込みしていた人たちも多かったのだと思う。でも、今回は範囲がすごく広かったのでボランティアが足りないっていうことになったり、ヤンキーの人たちが2トントラックにガソリンを詰めて行っちゃうというカッコいい人のブログがあがっていたり。そういう人たちの情報っていうのが、いちばん正しいのかなとも思っていて。そろそろ行った方がいいという時期でもあるので、僕も機会があったら行きたいです。

鴻池 : 仙台の方が、今を見てくれと言ってくれたので。とは言え、私は報道機関でもないですし、現地では静かにして絶対に邪魔にならないように、行って帰ってくるという。現地に着いたら、ずっと同じ瓦礫の風景なんです。何かを見たというよりも、テレビで流されていた映像と同じものを観ていた、と感じたのがまずひとつ。あと、現場の人たちはやることがたくさんありますが、遠くで見ている人たちは何もできない。当たり前ですが、それにすごく傷つきました。それで感じたのは、今の時代は映像を共有するっていうことなんだと。つまり、誰かが見たことのないもの(→見て来た人の話や写真)をみんなで見るんじゃなくて、全員(→全世界)が同じものを現場と同時に見てしまう。

ちょうど仙台に行く前に岡本太郎賞を見に行ったんですよ。行ったら久々に元気になれた気がした。粗削りで元気でとにかくボリュームがあって、それで太郎賞を取っていたのは、縄文的な呪術的な櫓を組んだものなかに呪具がかかっているようなイメージ。祈祷をする場所のような。とにかく、すましているところが一切なくて面白かったんです。それで、夜行バスに乗って、仙台についてそこから車で30分くらい石巻にはいった時に液状化している町でいろんな瓦礫が延々と続く光景があったときに、ふと太郎賞と一緒だと思ったんですよ。太郎賞と何が似ていると思ったかはすごく不思議で。でもずーっと続くんですよその瓦礫の光景が。美術館の中の区切られた非日常の空間ではなく、その非日常がずーっと日常の風景になっている。人間が作った家を自然という津波が飲み込んじゃった後の光景が、美術館で人間が作ったものと似ていたっていうのはどういうことなんだろうと。そんなことをぐるぐる考えながら、アーティストっていうのは、昔の大きな自然に似ているのかもしれないって思ったんですよ。


八谷 : 縄文時代って、天変地異が多かったのかもしれないですね。火焔式土器とかって、ちょっと火事が出たくらいじゃあんなものは作りませんよね。だから噴火とかが頻繁に起きていたのかも。今の時代は、1200年くらいでしょうか、噴火とか大地震とかが起きていなかった時期らしいんですよね。でもその前は、結構そういう自然災害がもっと頻繁に起きていて。だから今後盛んな時期になっていくんじゃないかという説もありますよね。また、温暖化って騒がれているけれど、数千年ベースの話でいくと、これからはまた寒くなって氷河期が訪れる。そういう地球のバイオリズムみたいなものがあると言っている人もいます。日本人ってずっと昔からそういう自然災害に壊滅的にやられるっていうのを経験していたから、ここで諦めてはいられないという。そういうベースがどこかにあるような気がしていて。


鴻池 : そういうベースででき上がっている人間っていう気がしますよね。細長い日本列島っていう島で、山と海で高低差のある地形で、四季があって地震があるでしょ、台風もあるし津波もあるし。日本に住んでいるとそういうのって当たり前だと思っていたけど、海外に行くと、すごく可哀相な人って言われたり。でもそれは豊かなのだと思う。そういう中で生まれた大脳が固まっていくのだなと思います。他の土地に生きている人たちとは、全然違うのだと思います。


八谷 : こういう言い方は不謹慎かもしれませんが、震災前の日本人よりもいまの日本人の方が生き生きしているような気がして。でもいま自分が何をやればいいかちゃんと考えている感じがする。なんかこういうのって不謹慎ですけど、日本っていままで3万人近くの人が自殺していたらしいんですが、今年は自殺者が減るんじゃないかって思います。そんなことするなら人の役に立とうって思う人、いるんじゃないかな。ピンチの時に役に立つ国民性みたいなものが出てきている気がしますね。鴻池さんの「ミミオ図書館」プロジェクトは、すごく素敵だと思いましたが、実際に被災地に行ってみて絵本の必要性はどう感じました? 避難所には子どもはいるのでしょうか?


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鴻池 : そうですね。避難所に子どもはいましたが、避難所って毎日人が入れ替わるし、減っていく。自分の親戚とか仮設住宅とかに移って行くから。図書館として何か使えるような場所がないかとか、役所のコミュニティスペースに置けるかなとかも見てきました。でも、私はこれからこのプロジェクトをどうやってやっていくかということも含めて、いろんな人たちと一緒に作っていきたいと。システムができ上がってみんなが寄贈するのではなくて、システム自体を改変しながらいちばんいい状態になったらどういう図書館ができるのかなと思って。その途中がものを作る面白さなんだなと。そこですね。寄贈することが目的というよりは、作り上げていくことを長く続けていきたいです。


八谷 : 図書館とか本屋さんとかも壊滅的らしいので、芸術の中でもそういうところに一番必要なのって、「音楽」と「本」かなって思ったんです。現代アートなんて二の次だと感じました。


鴻池 : そういう意味で言うと、本ってパブリックアートだと思うんですよ。いちばん自分でパッと開けば寝っ転がっていても見られるし、人といても自分の世界に入れるし、自分の時間を持てるので。ただ、私は一度も絵本は子どものためにと思っていなかったのですが、子どものためにって言われてびっくりしました(笑)。子どもだけでなく、絵本を必要としている人はたくさんいると思います。ゆっくりと、長く続くプロジェクトにしていきたいです。


(2011年4月8日に開催されたトークショウを一部抜粋)




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鴻池朋子さんの新しいプロジェクト「ミミオ図書館」は、絵本を被災地に贈るプロジェクト。ただ送るのではなく、絵本に寄贈シートを貼り、ひと言メッセージつきで本を渡すというもの。それは本の感想でも現地の人への言葉でも何でもかまわない。本だけではなく、誰がどういう気持ちで持ってきたものかという「想い」も一緒に被災地の人と共有しようという試みは、現在も進行中だ。



取材/上條桂子