Monthly INTERVIEW トップランナーに迫る

松井龍哉、ロボットと切り開く未来。

やりきる人が世界を変えていく

−松井さんの手がけてきたマネキン型ロボット「Palette(パレット)」は、実用化の道を進んでいますね。

松井

構想から7年かけて昨年、やっと量産に成功し、自社販売・レンタル事業開始までこぎつけました。一台だけののコンセプトモデルをつくるというのは、これまで情熱のみで突っ走ってやってきて、それなりにできるものでした。が、それを量産化し販売するというのは、実社会への影響を含め、全然意味合いも設計の次元も違ってきます。しかし本質的だから断然面白い。近代デザイン発祥の地、ドイツの伝統ある工業デザインの賞iFデザイン賞も先日受賞いたしました。「Palette」は量産製品として産業貢献をしていると評価されたことは私達の誇りです。

「Palette」東京・丸の内のカランダッシュショップでの展示

「U.T.Palette」東京・銀座 和光での展示

−海外からの問い合わせも来ているそうですね。

松井

はい。最初は日本だけでサービスを始めたのですが、上海や韓国に展示に行って手応えを感じました。特にヨーロッパから購入希望が相次いでいますし、世界の販売会社からの依頼も大変多いです。流通経路をじっくり見極めて販売を進めています。海外の方からは「東京らしいクリエイションだ」とよく言われます。それは意識をする・しないというのを通り越して、やっぱり東京で発想したものは、東京のものにしかならないのかもしれません。よく「日本のデザインとは何ですか」と聞かれたりするんですけど、やっぱり「今、この日本で作っているもの」としか言いようがない(笑)。それはよかれ悪かれ自然にそうなっているし、私も世界のいろんなところで仕事してきましたけれど、やっぱり日本人のDNAを自分の中に感じますね。

−たとえば、それはどういう部分ですか?

松井

ロボットの製造でいえば、やっぱり動きも含めての緻密さの求め方ですかね。パレットは日本の町工場で組み立てていますが、日本の町工場のレベルは世界一です。コンマ1ミリでの勝負をしている。やっぱりそこにいる職人さん一人ひとりのレベルが高いです。世界で一番任せて安心なのが、日本の町工場の方々です。

−日本のメーカーが携帯電話のような小さな筐体にたくさんの機能を盛り込んで進化させてきたように、ロボットにもそういった技術を応用できると思いますか。

松井

そう思います。まだまだ環境は整っていませんが。未来のためにはもっと独創的な中小企業が参加する必要があります。それと、どうしてもロボットというとハードウェアに目が行きがちなのですけど、やはりシステム、それから人工知能が投入されてくる側面を持っているので、そういったものとハードウェアの両方を進化させ、具体的に生活に価値を提供してくれるアプリケーションとして世界中に流通し、使われている将来の姿をみています。

−ソフトとハードの両面ということでいえば、パソコンの進化とも重ね合わせることができるかもしれません。

松井

最初にコンピュータを大学や会社に導入しようという時に、その良さを説明しても、なかなかわかってもらえなかった時代がありましたよね。「ワープロの機能がある」と言ったら「ワープロがあるじゃないか」と、「通信を介して設計図が送れる」と言えば「ファックスがあるじゃないか」と(笑)。「計算ができる」と言えば「電卓でいいじゃないか」という感じで、インターネットに至っては、まったく使ったことがない人にいくら説明しても分からなかったということと一緒ですね。


2009年11月、銀座・和光本館のショーウィンドウを飾った。ジュエリーコレクション「ジャンマリア・ブチェラッティ 華麗なる世界」で販売されたジュエリーを身につけている。

−ロボットも今の生活にはないもの。

松井

そうです。それは、たとえばソニーの創業者・盛田(昭夫)さんの本を読むと書いてあるんですが、最初は「なんの必要があるんだ」と周りに言われるんですよ。「そんなの要るの?」っていうのが、99%の意見で、イノベーションというのは、そういうところから始まる。まったく今までなかったものを、使い方からマーケットまで含めて提案するというのはそういうことなんですよね。ロボットデザインについて言えば、もうこれからは、生活に入るシステムとして新産業創出を徹底的に考えた、コンセプトから構想し販路まで提案できる時代です。人々の生活に入り、使ってもらって喜びを分かち合い、世界と大きく関わりをもって、社会を良いエネルギーに満たすロボット産業を実現する時期に入ったと思います。


古くはソニーのウォークマンのプロジェクトも、最初に登場したときは「そういう使い方があったのか」と驚きをもって迎えられた。それまで「音楽を聴くことを身体化する」ということ自体なかったわけですから…。 そういうイノベーションというのは、たくさん世界中で行なわれていると思うんです。アップル社のスティーブ・ジョブズも、デュアルサイクロン掃除機を発明したジェームズ・ダイソンもそうだと思います。イノベーターというのはけっこう本質を知っていて、こういうものがあったらもっと快適になるということを確信している。そして、それを社会に向かってやりきる人が世界を変えていくのだと思います。

構成・文/草野恵子