Monthly INTERVIEW トップランナーに迫る

松井龍哉、ロボットと切り開く未来。

学習機能を持ち、携帯電話で記録したユーザーのライフログをモニターに表示するという、まったく新しい携帯電話のコンセプトモデル「Polaris(ポラリス)」をKDDIのiidaから発表して大きな話題を集めたフラワー・ロボティクス代表の松井龍哉氏。松井氏の考えるロボットのいる未来やビジョンとは、どのような姿なのだろうか。
Profile

松井龍哉(まつい たつや)

1969年東京生まれ。フラワー・ロボティクス株式会社代表。日本大学芸術学部卒業。丹下健三・都市・建築設計研究所、科学技術振興事業団・ERATO北野共生システムプロジェクト研究員等を経て、2001年フラワー・ロボティクス株式会社を設立。ヒューマノイドロボット「SIG」「PINO」などのデザインを行う。また、マネキン型ロボット「Palette」では自社開発、量産から販売までこなした新たな活動で2009年グッドデザイン賞とドイツのIfデザイン賞を受賞、他にロボット「Posy」「P-noir」「Platina」などの研究開発に注力。ベネチアビエンナーレ芸術祭、ニューヨーク近代美術館、ルーヴル美術館内装飾美術館など出展多数。早稲田大学理工学部、日本大学芸術学部非常勤講師。2007年より日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞審査員。



ポラリス=「携帯+ロボット+テレビ」

−ポラリスのプロジェクトはいつ頃からスタートされたのですか。

松井

2007年の12月に坂井直樹さんと対談をする機会がありました。そのときにauデザインプロジェクトの方々をご紹介いただいて… というのがそもそもの始まりです。実は、最初のオファーは「携帯電話のデザインをやりませんか」という話だったのです。

−ということは、その時点ではポラリスのような広がりのある構想を、先方は想定されていなかったかもしれませんね。

松井

そうですね。ただ、私たちにとって「携帯電話のデザインをする」ということは、色や形など「形状」そのものを考えることではないんです。それは「スタイリング」だと思うんですよね。根底にあるのは、それを使うことによって何が得られるのかとか、その人の一日の生活の中でどれくらい影響力を持つ価値を提供できるかということ。そういう前提があって「システム設計はどんなふうに?」「そうであれば形は?」ということを考えていく。私たちがデザインを手がけるというのは、あくまでも使いやすさを含めた新しい生活の提案を根本から設計することだと思っています。これが基本的なロボットデザインの考え方です。

−なるほど、生活から見つめ直した構想の具体化がデザインというわけですね。

松井

ポラリスが持っているコンセプト自体は、ずっと温めてきたものです。もちろん携帯電話とつながるという具体的なイメージこそありませんでしたが、私たちの作っているロボットの本質的な部分をプロダクトで形にすることのできる素晴らしい機会だと感じました。

−その、温めていたコンセプトを詳しく教えていただけますか。

松井

フラワー・ロボティクスでは、もともとロボットが人間とコミュニケーションする際のアウトプットをどうすればいいのかということを、いろいろと実験していたのですが、そのひとつが音や光を使う方法でした。

たとえば、「スター・ウォーズ」に登場する「R2-D2」というロボットは、言葉をしゃべるわけではないけれど「何か考えているな」とか「怒っているな」ということが伝わってきます。それと同じように「言葉」ではなく、より感情そのものに訴えかける音や光によって、機械と人間をスマートにコミュニケーションできるようにしたいと思っていました。次に、ロボットがユーザーとのコミュニケションから得た情報を学習して文字やグラフを使い、ユーザーにとって意味のある情報を的確な意図で伝えたいと考えました。それがなければ人とロボットが無邪気に遊ぶだけのコミュニケーション玩具で終了してしまい、3日以内に飽きます。開発期間と開発費から考慮して、3日で飽きられる製品は世に出られません。個人の思い入れだけでなく、ロボットが社会にとって受け入れられ世の中や経済に広がりをもたらす構想が背景になければ、 開発の動機にはなりません。
そこで「ロボットとテレビ」をつなぐということを検証したんです。実用を考えるとロボットに言語処理をさせて状況や情報を言葉で説明させるのは無理がある。そこでテレビの画面にロボットからの情報を映し出すことを検討し始めました。テレビはほとんどの家にありますから、ロボットとテレビを一緒に使うことで、ロボットが生活の中に入りやすくなる。さらに、そこに携帯電話を加えたら、より面白いことができるのではないかと考えたわけです。

−それで「携帯電話とロボットとテレビをつなげる」というアイディアが生まれたわけですね。

松井

はい。でもちょっと考えてみれば、たとえば使う人の好みに合わせて自動的に録画するハードディスクレコーダーはAI(人工知能)的な仕組みの取り入れられた家電という意味では「ロボット+テレビ」に近い例だと思いますし、GoogleやAmazonなどに見られるような、購買履歴をベースにしたレコメンデーション(おすすめ)も近いものがありますよね。で、テレビというのはパソコンよりおそらく日常的にふれる機会が多いと思うので、そこにロボットの情報を合わせれば、人間の生活の中に入っていく道がもっと開けるかなと。ロボットが学習することによって私たちの生活の利便性を上げることを目指すなら、情報の「整理」から「提供」までをロボットのシステムの中でできれば人の生活に自然に入っていけると考えました。そして、ロボット自体は物理的に同じ空間に存在していて、私たちとコミュニケートするので、その実空間と情報空間の間にいる独自の存在意義を醸し出します。