Monthly INTERVIEW トップランナーに迫る

深澤直人、デザインを語る。

世界を変えるには、ちょっと変えればいい

−クライアント、経営陣とのやりとりは、どのように行っていくものなのでしょうか。

深澤

現実に起きている事実を経営者とともに受け止め、そのリアルを共有することから始めます。その上で問題をどのように具体的に解決したらよいかのアイデアをリアライズし、お互いが納得した上で実行に移します。問題点をビジュアライズすることはアイデアを得たことと同じです。わかっていそうで知りたくない真実に飛躍のカギが潜んでいます。

企業の未来も製品が必然的に向かっていく姿と同期していなければなりませんから、企業の利潤を目的にするよりも、社会がどのように進んでいくかを見極め、自然に進んでいく方向に逆らわず、社会全体の中である部分のパートを受け持った責任として、ものづくりを行っていくようにアドバイスしています。

リアルを見てもらうために、生活を背景にして、「これは正しいものです。これは調和が破綻したものです。どうですか?」と聞くようにしています。そうすると当然「正しい方がいい」とみなさんおっしゃいます。その差を理解した上で適正な答えの方へ導くためには、問題の解決策を一緒に考えていく姿勢が必要です。デザインを考えるということはその小さな行為の中に、社会性、経営や組織、技術、流通、コミュニケーションなどのすべてが関わってきます。デザインがちょっと変わったということは、それを生み出す企業が大きく変わったと同じことなのです。ひいては社会も大きく変わっていくきっかけになるのです。

最初から大きく何かを変えようとしてもなかなかその変革に踏み出せませんから、小さく変えてみて、その結果がよければ、それをきっかけに世界が変わることを納得してもらえます。小さなデザインで大きな社会の価値観を変えることができると思っています。

−ほんの小さなデザインの差が、ものすごく大きな違いを生み出すわけですね。

深澤

たとえば天井から下がった照明器具のケーブルがちょっと太いとかいう、みんなが生活の中で潜在的に気にかかっているエラーを見つけ出し、今までに変わらなかったスタンダードを頑張って修正するのです。最初は「なんだ、全然変わっていない」とか言われるかもしれませんが、比べてみると「ああ、良くなっている!」という感じがわかってくる。そうすると、もう元の太いケーブルには絶対戻れないのです。その微妙な違いは「あまり変わらないから前のままでいい」とはならないのです。全員が共有している潜在的な引っかかり、自分さえあまり気付いてなかった思いをすくいあげるということが、より良いデザインを成すのだと思います。

変なたとえですが、人の顔も「あの人は美人、あるいは美男子だな」と思いつつ、「もう少しここがこうだったら、完璧なのに」というように、みんな同じ小さな破綻部位に気付く(笑)。それはもう完璧が見えているということなのです。9割完成していてどこかが破綻していると、人の意識はそこに集中するのです。ですから、たくさんの人がどうでもいいと思うくらいの小さな破綻が、実は大きいのです。世界を変えるのは、ちょっと変えればいい。それが劇的に変わるのです。だから、それを探し出す。

−なるほど。

深澤

それとバランスがとれていなければ、ものが単独で美しいということはあり得ないと思っています。人間も調和を保つために自分が主張しすぎないようにバランスをとったりします。それと同じで、もの自体もその立場をわきまえ、そこで調和するようにと考えられたものが、結果的にはいい光を放つ。強い光ではなくても、「なんかいいなぁ」という。

−説明しがたい存在感。

深澤

そうです。存在感がないようで、ちゃんとあるということの方が美しい。自分のものもなかなかそこまで達していないように思います。そういうものをデザインしたいと頑張っています。評価されるのは、ずっと先だと思っています。ずっと先の世界でまだ僕が手がけたものが使われてたら、そのとき初めて思うのかもしれません。調和したと。



構成・文/草野恵子、撮影/ホソミタクヤ