

−先日行われた、ミラノサローネでは東芝のインスタレーション作品「OVERTURE」で印象的なプロダクトデザインを担当されましたね。
田川
動画をご覧いただきましょうか。この電球の形のオブジェを僕らが担当しています。
渡邊
実際の会場は150m2くらいの少しいびつな形をした図書館だったんですけれども、建築家の松井亮さんのアイデアで空間構成が行われています。床には砕いた白い大理石を敷き詰めていて、足が少しだけ沈むような感覚で場内を歩くことができるようになっていて。この無限空間のように見えるアーチは、全部鏡なんです。僕らが担当したオブジェは100個、天井からぶら下がっています。
−このオブジェは白熱電球ではなくLEDで光っているんですよね?
渡邊
そうです。東芝さんは、日本で最初に白熱電球を商品化したメーカーで、120年間にわたって製造して来たそうです。しかし、CO2排出量の削減にともない、2010年に一般白熱電球の製造を中止することを昨年決定されて…。
田川
実は、今回の展示で電球の形にこだわっていたのは東芝のデザイナーさんでした。僕らは最初、LEDの良さを活かした未来的な形状のものを求めているのかなと思っていたのですが、話をしていると、どうもそういうコンテクストの話ではないことがわかりました。先ほどの「時の洗礼」の話にもつながることなのですが、白熱電球が食卓の上にあることが素敵なイメージになっているのは、彼らが100年以上の時間をかけて創り上げて来たものがあるから。彼らはそれを「あかり」という三文字に思いを込めていて、その「あかり文化」を、これからLEDに移って行く時代でも、大事にして行きたいと思っている。その「あかり」の象徴が、電球の形だったわけです。
−なるほど、そういう意味合いが込められているんですね。
渡邊
このガラスは、松徳硝子さんに吹いてもらっています。
田川
昨年、建築家の伊東豊雄さんとの共作で「風鈴」というインスタレーション作品を手がけたのですが、その風鈴を吹いてもらったのがきっかけで、今回も現代の名工である松徳硝子さんに吹いてもらいました。実は、松徳硝子さんは電球の製造から始まった会社なんですよ。
−それはかなり歴史的な意義を感じさせるお話ですね。
田川
2009年という年は、旧照明、新照明がオーバーラップしている、歴史的に見てもめずらしい年ではないかと思います。そういう年に象徴的な展示ができたのではないかと感じています。
渡邊
このオブジェのインタラクションは二段階になっていまして、まず何も触れなくても歩くだけで、自分の近くのオブジェがぽっと灯ります。これにはいわゆるモーションセンサーを使っています。次に第二段階として、人が直に触れると、光が強くなってLEDがある一定のパターンで灯り始めるのと同時に、その光に同期するように小さな動物の鼓動のようなものが中から伝わってくるんです。
−その仕組みは、電球の上の部分に隠されているわけですか。

渡邊
そうですね。実はこの小さなところに複雑なテクノロジーが詰まっています。鼓動は、中に入っているモーターにつなげたハンマーによって作り出されています。心音のような振動を再現するのには、かなり苦労をしましたね。それと、このオブジェの中には水が入っているのですが、フィラメントの部分が内側とつながっていて、水の中に無数の電子が放出されていて、人が手を触れることによって電子が逃げ道を見つける。そうすると水の中の電子の量に差が生じるので、それを内側の部品が検知して作動するという仕組みになっています。一見すると、とてもシンプルで何もないように見えるのですが、実は内側では複雑なテクノロジーが使われているのです。
−ハイテクでありながら、とても心に訴えかけるオブジェですね。
田川
言わば母胎回帰のように、旧来の白熱電球の中に、技術として誕生したばかりのLEDの“心音”を感じさせる―ようやく鼓動を始めたLEDを実感できる―そんな展示になったかと思います。
−タクラムが手がける作品には、いろんなタイプのものがありますね。現在、21_21 DESIGN SIGHTにて開催中の『山中俊治ディレクション「骨」展』では、六足歩行ロボット「Phasma」を出展されています。
畑中
そうですね。これは僕が中心となって制作を進めたものなんですが… 生き物の走りの力学的原理を真似たロボットです。足を3本ずつ(片方の前脚と後脚、そして反対側の中脚)交互に動かすことによって、安定走行できる仕組みを再現しています。
−「OVERTURE」とはまた違い、メカ的要素が前面に出ている作品ですよね。このように、さまざまなタイプの課題が持ち込まれるわけですが、社内ではどのようにプロジェクトを進めていくのか教えてください。
田川
そのとき与えられたテーマについて、いちばん得意な人間とあまり得意じゃない人間を組み合わせて、チームを作るようにしています。そうすると、得意な人間が得意じゃない人間に対して、そのテーマについてのポイントを説明することで問題点が明らかになったり、不得意な人間がユーザー目線でそのテーマに取り組むことができるというメリットがありますね。テーマによって、その得意・不得意の立場が逆転することも往々にしてあります。なるべくそのようにできるよう心がけていますね。
−最後に、タクラムさんとしての今後の目標を教えてください。
田川
「デザインエンジニアリング」については、今後もずっと変わらず、取り組んできたいと思っています。こういうやり方に興味を持ってくれる方をどんどん増やして行きたいですね。それと、できるだけ早く海外での活動をやっていきたいと思っています。日本だけではなく世界を相手にした場合、人口も桁違いに多いですし、新しいところで新しい人たちと触れ合いながらやっていけたら面白いだろうなと思っています。
文/草野恵子 撮影/永留新野