Monthly INTERVIEW トップランナーに迫る

秋田道夫、プロダクトデザイナーが果たすべきこと。

世の中に増えてほしい「しつけのあるデザイン」

−今後のプロジェクトの予定を教えてもらえますか。

秋田

発売前の内容は話せないので申し訳ないのですが、これからいろいろな製品が発売する予定。ぜひ楽しみにしていてほしいですね。

−例えば携帯電話のデザインはされないのですか? 秋田さんのデザインする携帯電話が見たいと言う人も多いのではないかと思うのですが。

秋田

そんな風に思ってもらえるのは嬉しいですね。もし僕がデザインをするとしたら、年齢を重ねた人だからこそ持てるような、携帯電話を作りたいですね。今、周りを見渡してみると、ほとんどの製品が若い人向けでしょう。デザインは若くなければいけないという考えがどこかにあるようで。高齢者向けの携帯電話もあるにはあるのですが、やたらとボタンや文字が大きかったり、柔らかい形だったり、固定概念に縛られた「優しい」デザインはどうも素敵じゃないんですね。そうではなくて、ある程度の人生を過ごした人でなければ持てないと思わせるデザインがしたい。年齢を重ねれば重ねるほど、持ちたくなる物。成熟したデザインの携帯電話。僕自身がそろそろ60歳を迎える年齢になってきて、自分自身の問題として捉えるようになってきたというのもあります。どうせいい歳になるなら、その年齢をもっと楽しめる方がいい。



−なるほど。その他、デザインしてみたいと思う物は何でしょう?

秋田

小学校にまつわるデザインですね。小学校のための鉄棒、跳び箱、ブランコ、黒板、机と椅子…。僕、大学の卒業制作が「小学校の机と椅子」だったんです。それはなぜかと言うと、まだデザインに触れていない子供たちに向けて、さり気なくデザインを浸透させたいから。例えば町にあるインフラ設備が明るくきれいな色になれば、子供が書く絵にも良い色が使われるようになる。色に対して大胆になれば、洋服や生活道具もいろいろな色を選ぶようになる。もちろん全部がそうなる必要はないけれど、いろいろな選択肢を用意してあげることが大事なのではないかと思います。真っ向からデザインを教えるんじゃなくて、自然と身に付けてもらうという感じでしょうか。

−いい話ですね。これもデザインに対するリテラシーを高めることにつながりますね。

秋田

僕は信号機をデザインしたときに、皆が信号を守りたくなるような物を考えたんですね。信号機自体に優しさと凛とした気配を持たせるようにした。それから「ICOCA」の入金機のデザインをしたときは、天井が15度くらい傾いている物にした。それは忘れ物を防ぐためです。お金をチャージしている間に電車がやってきたら、乗客は慌てて飛び乗ろうとしてそこに置いた荷物をつい忘れてしまう。だから始めから台に荷物を載せられないようにしたんです。押しつけがましくないんだけど、しつけのあるデザインというのかな。そういうデザインのあり方を常に考えますね。

左奥:Primario スタンド、 左:80mm 湯のみ、 右:IDEO  HUBSTYLE

−最後に、良いデザインとは何でしょう?

秋田

物には2つのタイプがあって、人が触る物か、触らない物か。触らない物なら、その角が尖っていてもかまわない。見栄えだけ良くするのなら、ベストの形は別にあるわけです。しかし人が触る物になるとそうはいかない。角に少しアールをつけたり、素材を柔らかくしたり。つまり人が使いやすい物を作ろうとすると、少しダサくなるんですね、残念ながら。“良い物は少しダサい”。ダサい中でいかに格好良くするかを追求するのが、デザインの力だと思っています。
それから僕は「物は愛用すれど、愛着せず」とよく言っています。物を乱暴に扱えという意味ではないですよ。物は壊れてもしょうがないということ。例えば自分の家族や恋人が、自分が愛着している物をうっかり壊してしまっても、その人を責めることはしないでしょう。しないでほしい。あくまでも物は人の生活のためにあるもので、物が主人公の生活はすべきではないと思うのです。仕事柄、いかにも物にこだわっていそうな、僕のようなプロダクトデザイナーがそういうことを言うと、一瞬誰もが混乱するんでしょうが、でも物について考える良いきっかけになるかと思います。主人公は人なんだということを、忘れないでほしい。


文/杉江あこ、撮影/吉野洋三