Monthly INTERVIEW トップランナーに迫る

秋田道夫、プロダクトデザイナーが果たすべきこと。

今だからこそ実践したい「デザイン・ニューディール政策」

−今は戦後最悪の経済不況と言われていますが、この世の中をどう見ていますか?

秋田

一番大事なのはあまり気にしないことでしょうね。世間で言われていることが必ずしもすべてではないと思う目が必要です。つまり不景気だから仕事がないんだと、周りのせいにしてしまうのは良くない。恐いのは景気が戻ってきたときに、自分にその仕事が戻ってこないかもしれないことですね。
僕が会社に入ったのが1977年。ちょうどドルショックやオイルショックの影響で、日本全体が落ち込んでいた時期なので、今の状況とよく似ていました。就職がとても難しい時期だったので、同世代で企業のインハウスデザイナーになった人が非常に少ないんですね。会社を辞めて独立したのが1988年。その数年後にバブルがはじけた。そんなタイミングで僕は仕事をスタートさせてきました。しかし自分のできる範ちゅうで堅実に仕事を続けていれば、いつかベクトルは上に向くんだと思うようにしていました。

−では、不景気な世の中に対してデザインは何ができると思いますか?

LED式薄型信号機 撮影/日高正嗣

秋田

基本的にデザインというものは、贅沢品であると僕は思っています。やっぱり食べるのに困っている、着るのに困っているときに、デザインはなかなか介在しにくい。しかし景気が悪くなったときにこそ、どうすれば回復するのか、持ち直すのかを、デザイナーに相談してもらいたいとは思うんですね。例えば僕がデザインしたLED式の薄型信号機は景気に左右されることなく売れ続けていて、そのメーカーの業績は好調だと聞いています。こういう不景気な時期にこそ、信号機やガードレール、表示板など、町のインフラ設備をきれいにすることをやってもらえたらいいですよね。そこにデザインの力を使ってもらいたい。オバマ米大統領が「グリーン・ニューディール政策」を打ち出しましたが、だったら「デザイン・ニューディール政策」もあるのではないかと思うわけです。

−不景気な時代を通しても、コンスタントに仕事を続けてこられた秘訣は何だと思いますか?

秋田

フリーランスの立場になってより強く感じるのが、デザイナーにとってコミュニケーション能力を高めることはとても重要だということです。いかに多くの人に、自分の思いを言葉にして伝えられるかを試してきたように思います。コンセプトを文章化することに努めたり、3D画像を作って相手の理解を得やすくしたり、ミーティング中に理解しやすい例え話をしたり、相手の気持をやわらげるために笑いを入れてみたり。
僕のデザインは建築的で、カチッとしていて、油断も隙も無さそうな物が多いので、どうも恐そうな人だと思われているみたいなんですね。だからできるだけ相手に威圧感を与えないように努めます。あまり高い洋服は着ないで、常にカジュアルな服装でいるのはそのため。ポートレートを撮るときもよく笑っているのは、堅いイメージを和らげたいからなんです。 あと、僕は製品寸法に小数点以下は使わないようにしている。79.8mmも80mmも大差はない。それよりも作る人に数字を覚えてもらった方がいい。制作段階で間違いを減らしたいんです。簡単な数字で書いてある方が、相手も難しく思わないでしょう。そうやって、相手を乗せちゃう。僕がデザインしたマグカップ「80mm」は縦横の寸法が80mmなんです。分かりやすいでしょう。
僕の好きな言葉に「1つ2ついっぱい」というのがあって、人は2つ以上のことをいっぺんに覚えられない。だから2つ以上のことを頼まないようにするんです。そうやって相手に恥をかかさないことも、コミュニケーション能力です。例えば会話中に言葉が聞き取れなくても、その場で聞き直さない。その代わり、会話の流れの中で聞き取れなかったことをもう一度確認したり、察したりする。話の流れを断ち切ると、盛り上がりが薄れるでしょう。後から聞き直して、自分が間違える分には相手の恥にはなりませんからね。


80mm 湯のみ