Monthly INTERVIEW トップランナーに迫る

秋田道夫、プロダクトデザイナーが果たすべきこと。

オーディオメーカーのインハウスデザイナーとして11年、独立して20年。堅実な仕事を積み重ねながら、プロダクトデザイナーの王道を貫いてきた秋田道夫。これまでに彼が手掛けてきた物は、公共機器、家電製品、日用雑貨と実に幅広い。今の時代に無理なく同調する、彼のデザイン哲学とは? 柔らかい物腰と笑顔で語ってもらった。

Profile

秋田道夫(あきた・みちお)

1953年大阪府生まれ。1977年愛知県立芸術大学美術学部デザイン科卒業。同年トリオ株式会社(現・ケンウッド)入社。1982年ソニー株式会社入社。1988年よりフリーランス・プロダクトデザイナーに。デバイスタイルの「一本用ワインセラー」、生活家電シリーズ「MA」、コクヨIDカードホルダー「HUBSTYLE」、ステンレスステーショナリー「プリマリオ」、またセキュリティーゲートやLED式薄型信号機など幅広くデザインに携わる。




「価格をデザインすること」もデザイナーの役割

秋田さんの仕事で印象的なのが、製品の価格設定に対する厳しい目です。プロダクトデザイナーとして、価格はどうあるべきだと思っていますか?

秋田

僕は「一番優れたデザインとは価格だ」と、デザイナーにしては変わったことを言っています。それは僕自身が製品の付加価値として謳われているブランドやデザイナーの名前に対して、お金を出す気があまりないからなんですね。優れた物、優れた材料や技術でできている物はもちろん欲しいのですが、できるだけ妥当な値段の物が欲しい。だから製品の値段を決める際に、自分が買うかどうかは重要な判断基軸になっていますね。
自分の名前を広めるために製品を作るのであれば、あまり売れないとしても1.5〜2倍の値段をつけて「デザインの良い憧れの製品」にした方がデザイナーとしての価値は上がります。メディアにも取り上げられやすくなるでしょう。しかしその製品を多くの人に使ってほしいし、いろいろな場所で売られてほしいと思うので、僕は誰もが買いやすい値段を付けようと思う。“デザインされていること”を特別に訴えるのではなく、すべての製品と同じ土俵で勝負したいと思っています。


deviceSTYLE ブルーノパッソ サーモコーヒーメーカー
撮 影/日高正嗣

−メーカーに対しても、そのようなことを提案されているわけですね。

秋田

そうですね。もちろん最終的に値段や方向性を決めるのはメーカーですが、やっぱり売れないと次につながらないじゃないですか。次につながらなければ、製品の改良や改善もできない。それをどれだけ賞賛されても、実際に買う人が少なくて、3年後に消えてしまうというのは悲しいですね…。もちろんそういう製品によってデザインの可能性が広がるのであれば、あってもいいと思うのですが、僕が目指しているのはそうではない。

−“いろいろな場所で売る”ことを実践したブランドの1つが、家電量販店に売り場を設けた「デバイスタイル」ですよね。

秋田

「デバイスタイル」は、経営者が元々オーディオメーカーにいたこともあり、家電量販店という場所と人に精通していました。つまり「お店と販売のリアル」を知っていたわけです。代表商品であるコーヒーメーカーとワインセラーは販売が好調で、途中から売り場の中にコーナーができたほど。そして最初商品に貼られていたPOPがどんどん無くなって、売り場がきれいになりました。「ハイアール」の商品を販売するときも、バイヤー自らが「これには無粋なPOPを付けてはいけませんね」と言ってくれた。つまり家電量販店の製品デザインに対するリテラシーが上がっているんですね。これは嬉しいことです。



−一般的な消費者感覚を身につけるために実践されていることは何かありますか?

deviceSTYLE 1本用ワインセラー

秋田

僕は端から普通の人ですが、100円ショップにはよく行きますよ。例えば100円のテープカッターと、僕がデザインした「プリマリオ」のテープカッター(4万円)では400倍もの価格差がある。ただ使うだけであれば100円で事足りるのに、その差はどこにあるのだろうかと考えます。
「価格が重要だ」と言っておきながら、「プリマリオ」は矛盾するのではないかと思われますが、このブランドには「卓上のF1カー」を作るような気持ちが込められています。メーカーの高い技術力を具体的な形として見せるには、一般の人にも分かりやすい製品になっていた方がいいと思うわけです。
「プリマリオ」は約25mmのステンレス無垢でできているのですが、僕も含めて、誰もそんな素材を直に見たことはないと思います。ステンレスは重くて硬くて、磨くときれいな光沢が出ます。そういう素材の素顔を引き出すデザインをしたいと思っています。補足をするなら、「プリマリオ」はユーザーに“永遠”をプレゼントできるんですね。錆びないし、壊れないし、ずっと使い続けられる。それこそ孫の代まで引き継げる製品だと思っています。
それから当たり前の話ですが、僕は自分がデザインした製品は自分でも使うようにしています。発売当初から使い続けることで、ここが良かった、ここはもう少しこうすれば良かったと確認できる。そうやって本当はユーザーがメーカーやデザイナーを育てなければいけないと思うんですよ。クレームではなくて、真心を持った意見はとても参考になる。ユーザーと共に、デザインは育っていくわけです。