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コンシェルジュの愛用品 04
ヨーン・ミッケのスモーキングパイプ
img イズムコンシェルジュ
「腕時計」
松田朗プロフィール
フリージャーナリスト

奇跡的に生還した愛用のミッケ

 原稿を書くときや、旅先でホテルの部屋に戻るとだいたいパイプをくゆらせています。シガレットはオンタイムの一区切りで、シガーはフルコース料理の総仕上げ。気分を高揚させたりもします。けれどもパイプスモーキングは、ささくれ立った神経を癒し、静謐な時空間の中を漂わせてくれます。

 好きなパイプタバコは20年来、生粋のバージニア葉に、ミシシッピ流域で作られるペリークという発酵させたタバコ葉をほんの少し混ぜたもの。それを米粒大の火種でじわじわ醸すようにしてか細い煙を立て、一筋の煙を目で追いながら、香気とナチュラルな甘みを堪能します。

 使うパイプは、ダンヒルのクラシックスタイルやらチャラタンなどをとっかえひっかえですが、月に一度か二度、ヘビーな仕事のひと区切りなど、ここぞというときに持ち出すのが、写真のオブジェダールとしかいいようのないパイプ。20年来寄せてもらっている銀座の老舗喫煙具店、菊水の輿石英二専務がセレクトした、デンマークのフリーハンド作家、Jorn Micke (ヨーン・ミッケ)の作品の中でも、ゼブラの刻印がある特選品です。

 魚がモチーフで、ブライヤールートで作られた造形物なのに、どこから見ても躍動感があって流線が美しい。手にするたびに、日頃は意識しない下層意識体系を鷲掴みにされ、グラグラと揺すぶられるような迫力を感じます。左右非対称に見えますが、中央に重心があって、口にくわえると軽い。まさに名人芸です。ミッケは1950年代から家族と島に住み、年産40点ほどを作り、近年ではスイスのwagner-tabakと菊水が主に取り扱いましたが、惜しくも2005年5月に作家本人は亡くなってしまいました。パイプを収めるボックスも変わっていて、初期は角型で後期は円筒の表層に自ら、新聞から切り抜いた女性の裸体などが貼られています。

 同じデンマークの作家パイプは、イヴァルソン、ラスムッセン、ノルド、ホルベック、ユリアなどいろいろ持ってますが、私の下層意識体系を直撃するのはこのミッケだけ。それだけに値段も、130万円と常軌を逸していて、こんな無益な趣味の世界を家人や子供たちはどう思っているのか心配です。

 そういえば、このミッケを紛失したことがあります。2004年の「世界時計博」(バーゼルワールド)の会場でした。ミッケやノルドなど5本のパイプと、パスポートやら帰りのエアチケット、腕時計、現金などを入れたバッグを置き忘れたのです。そのとき、同じパイプスモーカーで独立時計師のフィリップ・デュフォー氏が、広大な会場内を駆け回ってくれたりしたおかげで数時間後、奇跡的に戻りました。このパイプを使うたびに、駆け出してくれた氏の後ろ姿や世話になったスイス連邦警察の方々、あの時の空気感までもが鮮明に浮かび上がります。感謝の思いと共に。

データ
Jorn Micke (ヨーン・ミッケ)のスモーキングパイプ
買ったときの値段:約130万円
お問い合わせ:銀座 菊水 tel.03-3571-0010
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