伝説の漫画家が残した余韻が、今ガーリーに甦る! 岡田史子インタビュー
だけども、誰もいなかった

 あの時、岡田さんがあれほど強く求めていたものの正体はなんだったのか、謎は残されたままだ。でもだからこそ、説明のつかないものを抱える読者を、岡田作品は優しく慰めてくれる。

岡田さん
岡田史子さん
 今回の出版はありがたいことだけれども、嬉しいというより、不思議な感じがしますね。 東京に住んでいたころには、ファンの人がたくさん集まってきて、男性はたいてい私に恋をしたりしてね。わたしに直接会うと、漫画以上にわたし自身に興味を持たれることがよくあったんです。わたしの漫画の話はほとんどしなかった。みんな自分でも描く人だったしね。自分の作品の話をしたり、お互いの作品を批評しあったりとか。みんな一同に集まるんですよ。わたしは、大勢集まるとしゃべらなくなるたちなので、みんなの話を聞くだけでした。ファンレターをくれた方には必ず返事を出すんです。すると向こうからまた手紙がきて、それにまた返事を書くってことを繰り返して。いつの間にか文通していた人が、何人かいますよ。
 
「春のふしぎ」より
「春のふしぎ」より。あかたも外国の絵本のような雰囲気が岡田作品には漂う。
(C)岡田史子/『岡田史子作品集 ODESSEY episode1 ガラス玉』飛鳥新社より
 その頃、嬉しいとか楽しいとか、そういう気持ちはありましたけど、完全に心が満たされるということはなかったですね、漫画を描いていても。私は喪失感というか、ずっと持っていた疑問みたいなもの、それを埋めてくれる人を探し求めて、漫画を発表していたんです。だけども、誰もいなかった。私がそういう人を求めているということに気づいた人さえいなかったから。
 今後漫画を描く予定は、まったくありません。もう終わったんですよ。もしこれから描くとしても、私自身がすごく変わっちゃったから、昔の作品を好きでいてくれた人を満足させられるようなものが描けないと思います。
 今は、テレビを見たり、本を読んだり。好きな作家はいっぱいいますよ。大好きなのは、トーマス・マンとか、バルザック、ヘルマン・ヘッセ。夏目漱石もかなり大きくなるまで読まなかったんですけど、すごく好きですよ。歳を重ねてから読むとまた違ったりしてね。村上春樹も好きです。『ねじまき鳥クロニクル』がすごくおもしろいですね。長いけど、長さを感じさせず読んでしまいます。
 どんな人に読んでほしいかって、考えたことないですけどねぇ。でもサイン会にはどんな人がくるのか、わくわくしてますよ。やっぱり感受性の豊かな若い人に読んでほしいです。(2003年6月11日)
 
若い読者のための、岡田史子入門本


ペイネ・愛の世界旅行
『ペイネ・愛の世界旅行』(レイモン・ペイネ/プチグラパブリッシング)
2001年にリバイバル公開された、レイモン・ペイネによる伝説的ファンタジー・アニメーション『ペイネ・愛の世界旅行』のビジュアル集。作品ごとに絵柄の変わる岡田作品は、ペイネや手塚治虫の影響を受けていたそう。
エドヴァルド・ムンク
  『エドヴァルド・ムンク』(ウルリッヒ ビショッフ/タッシェンジャパン)
高校時代に先生に絵が似ていると言われ、興味を持った作家・ムンク。「好きな作家は山ほどいますがムンクのように私生活にまで興味を持ってしまった人は他にいません」。幼い頃に母親と姉を亡くし、生きることへの不条理に生涯囚われ続けるムンクは、「生」と「死」をテーマとした作品を多く残している。
黄色い本―ジャック・チボーという名の友人
  『黄色い本―ジャック・チボーという名の友人』(高野文子/講談社)
第7回手塚治虫文化賞・マンガ大賞を受賞した、寡作で知られる著者の最新作。特に『チボー家の人々』を題材にした表題作は、岡田作品同様、知的な繊細さを持ちながら、読むものをのめり込ませる不思議な魅力がある。岡田氏の作品集へ寄せた序文には「ガラス玉」に出会ったときの不思議な印象と、漫画家同士だからこそ語れる作家の心情について言及されている。
ヘルタースケルター
  『ヘルタースケルター』(岡崎京子/祥伝社)
こちらも漫画界の天才として、復活の望まれる作家・岡崎京子。事故前最後の連載作がついに単行本に。パーフェクトな顔とスタイルを誇る売れっ子タレントりりこは、美に固執し、いつしかジリジリと破綻の道を歩んでいく。"完璧な自分"を追い求めさせる内面の弱さが、恐ろしいまでに描かれ、読むものを圧倒する。
ドーナッツ!―マイボーゾウにのる
  『ドーナッツ!―マイボーゾウにのる』(100%ORANGE/PARCO出版)
まさに旬のイラストレーター、100%ORANGEによる絵本は、どこかなつかしく、ほのぼのとしたタッチ。コンコルドグラフィックス相馬章宏氏による装丁がポップな岡田さんの作品は、100%ORANGEファンの心もノックするはず。
ねじまき鳥クロニクル全3巻
  『ねじまき鳥クロニクル全3巻』(村上春樹/新潮文庫)
岡田さんが最近好きという作品。僕とクミコの家から猫が消えることで始まる、なにかを取り戻すための長い長い物語。ふたつの世界を行き来し、読み進めていくうちに迷宮入りしていくような読み味は、岡田作品と共通する魅力。そういえば岡田さんも猫が大好きだとか。
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