石田衣良インタビュー 「池袋ウエストゲートパーク」という音楽
石田衣良のベストセラー『池袋ウエストゲートパーク』(IWGP)シリーズに登場するクラシックの名曲を集めたコンピレーション・アルバムが登場! クラシックファンだけでなく、IWGPファンも必聴の一枚。選曲、監修はもちろん石田衣良本人。熱烈なクラシック・ファンである彼に、音楽、そしてことばについて話を聞いた。

世界にはジャンルを超えた良いものがたくさんある

石田衣良(いしだ・いら)
1960年東京生まれ。成蹊大学卒業後、広告制作会社などでコピーライターとして活躍。97年9月「池袋ウエストゲートパーク」でオール読物推理小説新人賞受賞。03年7月、「4TEEN」で第129回直木賞受賞。
最新刊は、「池袋ウエストゲートパーク」シリーズ5冊目となる『反自殺クラブ』。

池袋ウエストゲートパーク(IWGP)シリーズとは
池袋のストリートを舞台とした異色サスペンスでもあり、主人公マコトを軸とした青春小説でもある連作シリーズ。2000年には宮藤官九郎脚本・堤幸彦監督と豪華スタッフでテレビ化され、若い世代を中心に絶大な人気を集めた。作中に多数のクラシックの名曲が挿入されているのも特徴。

CD収録曲一覧

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「弦楽セレナーデ」第1楽章/チャイコフスキー >>視聴する
「春の祭典」/ストラヴィンスキー
「亡き王女のためのパヴァーヌ」/ラヴェル >>視聴する
「十字架上の七つの言葉」/ハイドン >>視聴する
「弦楽セレナーデ」第3楽章/チャイコフスキー
「鳥のカタログ」/メシアン
「死と乙女」/シューベルト
「18人の音楽家のための音楽」/ライヒ >>視聴する
「マタイ受難曲」/バッハ
――まず、このCDをリリースした感想をお聞かせください。

お話をもらったときは嬉しかったですねぇ。もともと、音楽評論が読み物として好きでよく読んでいましたし、音楽について書くのは好きなんです。ライナーノーツを書くのも楽しかったですよ。

――CDの中で、特にこれは外せない、と思った曲を挙げるとしたら?

「弦楽セレナーデ」、「亡き王女のためのパヴァーヌ」、「マタイ受難曲」……の3曲ですね。でも収録曲は全部好きですよ。どれもストーリーに絡んで使われたものだし、小説に合う曲を探すのは楽しいですね。

――作品があって、曲がある、という順番なんですね。

書くときには、すでにどの曲を使うかは決まってます。このストーリーだからこの曲という風にタイトルや雰囲気や流れが合うものを選んで、それを流しながら執筆もしますしね。それがまた楽しいんですよね。脳内ドラッグとして、いいですよ(笑)。

――もともと、クラシックはお好きだったんですか?

30歳手前のある月曜日の出勤前に、たまたまグレン・グールドが演奏するバッハのゴールドベルグ変奏曲を聞いたんです。最初の有名なアリアの後、第一変奏に入った瞬間痺れたんですよね〜。なんだこれ? すごいスピード感だと。

この話はあちこちで書いているんですが、そのときの45秒間で、本当に小鳥が空を飛んでいくのが見えたんです。しかもその小鳥は雲を突き抜けて宇宙を飛びまわる(笑)。

ただ単純に、グールドの演奏が素晴らしかったんだと思うけど、ロックでもダンスミュージックでもあんなに速い音楽はないと思って。そこから週末になると50枚100枚とクラシック買い漁る生活が始まったわけです。

――では、ずっと聴いていたわけじゃなくて、ある日突然ガツンと。

突然、雷に打たれた感じでしたね。ただ、それまでもジャズやロックにはきちんと向き合っていたので、ある程度は聴く耳ができていたんだと思いますよ。音楽を聴く耳は一度作っておいたら、一生楽しめるからね。

――必要ですよ。その耳。今の日本…ちょっと心配ですけどね。


クズみたいな音楽を絶え間なく聞かされているからね。ジャンクフードの美味しさも確かにあるんだけど、本当に美味しいものと並列で楽しめるようになった方がやっぱり豊かだよね。

――今回はIWGPシリーズに挿入された曲の中から石田さんご自身が選曲されたわけですが、普段クラシックに馴染みが無い若い読者にクラシックについて伝えたいことは?

世界にはジャンルを超えた良いものがいっぱいあるから、自分がかっこいいと思う音楽をもっと聴いた方がいいよ、ということですね。

――石田さんにとってそれはどういう音楽ですか?


ソリッドで、無駄がなく、シャープだけどポップなもの。文章で言うと、柔らかいけれど鋭さがあるもの。そういう対極のものが同時に存在しているものがかっこいいと思うんだけどなぁ。高倉健みたいに「不器用ですから……」みたいな時代じゃないでしょ(笑)。あの不器用アピールって「ウソつけ! 世渡り上手が!」って思わない?

――石田さんこそ世渡り上手じゃないですか!(笑)。


僕? 僕は本当に世渡り上手なんですよ(笑)。金儲けだけだったらバリバリできますから。

――質問を変えましょう(笑)。言葉の力と音楽の力に共通する部分って何だと思いますか。

ある気分をその作品に触れた人に強烈に伝える…、感情を揺り動かす力…ですかね。人間って本当は大きな感情の幅があるじゃないですか? 普段は、あんまり振れないけれど、本当は心の両端を使った方がいいんですよ。心が固くなってしまいますから。そういう精神のストレッチをするのに、小説も音楽も素晴らしい力があると思いますよ。なんか優等生だね〜、この答え(笑)。でも質のいい娯楽ってそういうものだと思うけど。

――では「音楽の力」をあえて言葉にすると?

うーん……。人間の心って、時間が一定に流れているわけじゃないよね。傷ついて止まっていることもあれば、同じところをぐるぐる周っていることもある。そんな心のなかの時間を整えてくれるのが音楽だと思いますね。それは生きるリズムを整えてくれるといってもいいかもしれない。

――いい表現ですね。

もぅ任してくださいよ(笑)。思いつきでいろんなことをいう商売ですから(笑)。

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