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メッタ斬り!版 芥川賞、直木賞選考会

角田光代『対岸の彼女』(2回目) 当落予想 作品評価
大森◎ 豊崎◎ 大森A 豊崎A-

『対岸の彼女』角田光代/文藝春秋
豊崎 『対岸の彼女』で決まりでしょう、おそらく。まあ、伊坂幸太郎とダブル受賞っていう線もあるかもしれないけど。
大森 うん、いずれにしても『対岸の彼女』が軸になるのは間違いない。でも、今回は、すんなり二作受賞にはならないかもしれない、
豊崎 ほお?
大森 前回、選考委員の五木寛之先生が、「いつから直木賞は二作受賞が当たり前になったんですか」みたいなことをおっしゃったらしいんですよ。たしかに角田+伊坂っていうのがバランス的には順当な線だけど。
豊崎 そっかー、ヒロちゃんがそんなことを言ってんですか。まあ、まず『対岸の彼女』は確実だと思うんですよ。最近こういう、結婚しないで働く女性と結婚して子どももいる女性の対立とか友情を描いた小説がめだつんですよね。平安寿子さんの『なんにもうまくいかないわ』もそうだったし、負け犬言説のシンクロニシティ現象っていうのが最近起こっているのかなあと思ってるんだけど。その中でさすが角田さんって言うべきで、ちゃんと毒のある小説になっているのがえらいなあと思いました。
『なんにもうまくいかないわ』平安寿子/徳間書店
『空中庭園』角田光代/文藝春秋
大森 ただ僕は、出来は第128回の候補になった『空中庭園』のほうがよかったかなあと思ってるんですけどね。『対岸の彼女』は働きに出る主婦の側のエピソードがステロタイプで。
豊崎 なるほどね。
大森 特に旦那との関係。口では理解があるようなフリをしてるけど、内心、女房は家にいたほうがいいと思ってると。そういう旦那っていかにも多そうなイメージだけど、現実にはそんなにいない気がする。今どきの旦那は育児参加したがる人のほうが多くて、専業主婦の奥さんが家にこもって一生懸命子育てすることはかえってうっとうしいと思うんじゃないか。個人的にはこの家庭にいまいちリアリティを感じないんですよ。口うるさいお姑さんもめちゃめちゃ古典的なパターンだし。
豊崎 たしかに作品としては『空中庭園』のほうが上ですけどね。
大森 最初に出てくる公園デビューの悩みの話も、「だったらとっとと認証保育園に入れろよ」とかいらいらするし。いざ就職が決まってから、認可保育園に入れるのがたいへんだと急にあわてはじめたりするのも現実味がない。
豊崎 さすが二児の父のリアリティ!
大森 まあ、そういう性格の女性だって設定なんですが、息子と同じ保育園に行ってる子どものお母さんたちを観察するかぎり、こんなタイプの人ってあんまりいないね。そういう点で、林真理子は受賞に反対するかもしれない。ただ、男性の選考委員は反対しないだろうし、平岩弓枝と田辺聖子は積極的に推しそうだから。
豊崎 田辺聖子さんが、もうひとりの主人公である働く独身女性・葵の少女時代のパートで推すんじゃないかと思うんですよ、葵の高校時代の友だち・ナナコのキャラが際立っているでしょ。たとえば79ページ“無視もスカート切りも、悪口も上履き隠しも、ほんと、ぜーんぜんこわくないの、そんなところにあたしの大切なものはないし”とか。少女の頃、ああいうことが言いたくても言えなかった子たちって結構いると思うんですよね、そいで『蹴りたい背中』に出てくる女子高生たちみたいに集団にまぎれて好きでもない連中に合わせて笑ってたりして。
大森 だから、女同士の友情ものっていうことではとてもよく書けている小説。特に葵とナナコが、夏休みに民宿でバイトするエピソードはすばらしい。アルバイトは終わったんだけど、なんとなく帰りたくなくって、ふたりでラブホテルを泊まり歩いて、みたいな。それが最終的にはすごい社会面ネタになってしまう展開にも無理がない。
豊崎 そこでもいい台詞があって、168ページ“ずっと移動してるのに、どこにもいけないような気がするね”ていう。これなんかも思春期の女子にとってはリアルな心理だと思うんです。
大森 そこはちょっと「いかにも」すぎる気がするけど、放浪が長くなるにつれてだんだん疲れてきたり、荒んできたり感じはリアルだった。最初のうち「ちょっとこれは……」と思ったけど、ラストも含めて、最終的にはいい作品だと思います。
豊崎 まあ無難に受賞だと思うんですよね。ほら、『空中庭園』との合わせ技1本ってのもあるし。そういうの得意でしょう? 直木賞は。

岩井三四二『十楽の夢』 当落予想 作品評価
大森  豊崎▲ 大森B 豊崎B-

山本兼一『火天の城』 当落予想 作品評価
大森  豊崎○ 大森C 豊崎B-

『十楽の夢』岩井三四二/文藝春秋
『火天の城』山本兼一/文藝春秋
豊崎 さっさと片付けておきたいのが、文藝春秋の時代小説2冊。一体どうなっておるのか? 文藝春秋はいったいどうしたいのか? NHK大河が義経を扱う今年にあってどっちも信長絡み、安土・桃山もの!
大森 しかもどちらも松本清張賞の受賞者。
豊崎 『火天の城』は信長の命で安土城をつくる大工の親子の話。戦国プロジェクトXみたいな売りなわけですよね。
大森 長島一揆を題材にした『十楽の夢』は信長から輪中を守る話。
豊崎 『火天の城』はおじさんのためのラノベ? っていうくらいたーっと読めた。
『天下城』佐々木譲/新潮社
『虎の城』火坂雅志/祥伝社
大森 去年はなぜか築城ものが3冊くらい出てるんですよ。佐々木譲の『天下城』は天才石工の話で、最終的に安土城をつくる。『火天の城』とあわせると、安土城の石組み担当の人の話と木造部分担当の話が両方わかる(笑)。時代はもっとあとだけど、火坂雅志の『虎の城』ってのも築城ものです。
豊崎 へーえ。
大森 個人的には、松本清張賞を受賞したばかりの『火天の城』が候補に入ったのが、今回の直木賞で最大の謎。豊崎さんは対抗つけてますね。作品的には『十楽の夢』じゃない?
豊崎 出来についてはわたしもそう思います。ただ、『火天の城』は、老眼とボケがお進みあそばしておられる選考委員の爺たちにも読みやすいんじゃないかと思って(笑)。候補作を読まないことで有名なツモ爺(津本陽)もさくっと読めたと思うし。うるさいでしょうけどね、自分のフィールドである時代小説には。
大森 うるさいだろうけど、これは築城の話に絞ってるから、抵抗は少ないかも。細部までよく調べて書いていると逆に感心されたりして。
豊崎 あとね、作者の山本兼一さんが松本清張賞を受賞した時「本の話」のインタビューを受けてるんですけど、ちゃんと目配せしてんですよ。“今さら誰かが信長を書くといったって、司馬遼太郎先生の本があり、津本陽先生の本があり、じゃあどういうふうに新しい信長像を描けるかというと、非常に難しいと思います。”、ちゃんとツモ爺に対するエクスキューズがなされている(笑)。これだったらツモ爺も気持ちよく推せるんではないかということですね。今回はそういうツモ爺の力を信じてみようかと。そういう意味での「対抗」なんでございますの。
『青い空』海老沢泰久/文藝春秋
『黄金旅風』飯嶋和一/小学館
大森 『十楽の夢』も一種のプロジェクトXものなんだけど、石山本願寺を頂点とする一向宗に対する組織宗教批判にもなってて、本願寺が親鸞の教えをいかにねじまげ、民衆をだまして集金するシステムをつくりあげてきたかって話が最後に効いてくる。去年は海老沢泰久の『青い空』っていう寺請制度批判の歴史小説があったんですけど、それと好一対かな。地味だけど、出来は悪くない。ただし、ひとつの町を守る歴史小説ってことで言うと、去年は、直木賞を辞退している飯嶋和一の『黄金旅風』があったわけで……。
『泣き虫弱虫諸葛孔明』酒見賢一/文藝春秋
豊崎 そうなんですよっ! 『黄金旅風』を読んでる人が選考委員にいた場合、やっぱり弱い、あっちのほうがいいよねって話になってしまいそうなんです。たしかに『十楽の夢』は宗教小説であり、経済小説であり、戦記物であり、更に町の自治を問うてるってところで『火天の城』にはないテーマの重層性が感じられる。ただ、出版社としてどっちが売り易いかっていうと、『火天の城』。だから文藝春秋的にはこっちに受賞させたいのかもなーと邪推しちゃったんです。
大森 それより文春から出てる歴史物を2つも候補にするんなら、酒見賢一の『泣き虫弱虫諸葛孔明』をなぜ入れないのかと言いたい。
豊崎 おっしゃるとおり。
大森 完結はしてないけど、これまでもシリーズ物に授賞してるんだから。

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