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綿矢りさ『蹴りたい背中』徹底解剖!

『蹴りたい背中』をめぐる……

賛否両論いろいろあるようですが、ぼくは『蹴りたい背中』を読んで、若い頃の気持ちを思い出したし、若い人の一部が感じているだろう胸のつかえるような思いが伝わってきたし、ハッとするようなシーンもいくつかあった。何箇所か笑ったし、いくつかの喩えで気持ちが動かされた。とても面白かった。それで充分。
綿矢りささんと同じ年齢のころに、この本を読んでいたら、こんな気持ちあるあるって思って、ちょっと自己嫌悪したり、でも、気持ちが和んだりもしただろうな、と思う。安易な結末に閉じないところも含めて、したたかな小説だ。
インタビューを読むと、著者の綿矢りささんにも、作家としてのしたたかさを感じる。たとえば、文學界3月号の藤沢周との対談での発言。

自分の本に関しては、性別限らず大人が出てこないから、後ろの背景がないんだと思います。それを反省とかはしてないと同時に、私のやり方がよかったのにという気持ちも全然ないんです。ただ、そういう見方もあるんやなということを、今回気づきました。(P252)

たとえば、「文藝春秋」2004年3月号での発言。「世界が狭い」という評について、どう思うか?という質問に対して。

芥川賞のニュースを見た人が買って読んでくれた時に狭いとか物足りないとか感じたら、「ほんまにすいません」という気分です(笑)。ただ、あの小説にはあの狭さがいちばん合っていると思ってます。狭さの中では悪くないのと違うかな。(P327)
蹴りたい背中
コインロッカー・
ベイビーズ

村上龍さんが、芥川賞受賞後、読売新聞に書いたというエッセイを思い出す。
偉い大人たちに『何も主張しないただながめているだけの世紀末世代』だと言われれば、『そう言えばそういう気もします』と言うようにしよう。(中略)ふやけた優しさだけにすがる世代だと決めつけられたら、スピッツの子犬を抱きあげて頬ずりしながら『チーズ』の表情をしよう。
(筒井康隆『みだれ撃ち涜書ノート』からの孫引き)

『蹴りたい背中』は、奇しくも、芥川賞受賞作としては、村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』以来、28年ぶりのミリオンセラーとなった。
スピッツの子犬を抱き上げて頬ずりするよりも、ある意味、柔軟で、したたかなスタンスを持つ綿矢りささんが、いずれ村上龍さんの『コインロッカー・ベイビーズ』のような凶悪な傑作を書いてくれるんじゃないかと想像すると、ワクワクしてくる。


(構成・文 米光一成/こどものもうそう)

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