『バカの壁』が売れた理由
――すでにいろいろな取材で尋ねられてると思うんですけど、これだけ売れたのはどうしてでしょう?やっぱりタイトルのインパクトですか。
後藤 タイトルは大きいですね。それと帯の〈「話せばわかる」なんて大ウソ!〉も、好評でした。ただ、スタートダッシュでタイトルや帯が効いたのは間違いないと思うんですが、それだけを言われるといささか寂しいような。
――聞き書きの話し言葉にしたことで敷居が低くなったと思いますよ。養老先生の文章は、ときどきふっと飛躍しますよね。それに、どうしても脳や身体のこみいった議論が出てきますし。それが面白いという養老ファンもいるけど、『バカの壁』は養老哲学のエッセンスを抽出して、専門的な話はできるだけ少なくしている。それも大きなポイントだったのでは?
後藤 ええ、養老先生もご自分で「最近は受け入れられやすい文章が変わってきている。」というふうにおっしゃってます。
――今年、小林秀雄賞を受賞した三冊のうち、吉本隆明さんの『夏目漱石を読む』も岩井克人さんの『会社はこれからどうなるのか』も聞き書きでしたしね。
後藤 これはウケ売りなんですが、新書の名著といわれるものには、しゃべりをもとにしたものも意外と多いようなんです。
――そうなんですか?
後藤 たとえば、山口昌男さんの『文化人類学への招待』、E.H.カーの『歴史とは何か』などですね。
若い人だと、授業を受けてるみたいという感想もありましたね。
――そういえばそうですね。これからも面白い新書を作ってください。今日はどうもありがとうございました。
どうやら、186万部の大ヒットに特別な仕掛けは何もなかったらしい。著者、タイトル、帯、中身の四拍子がピタリと揃ったということか。 では、書店のほうではどんな売れ方をしたのか。ジュンク堂の新書担当に取材してみると――、
「新潮新書創刊時は、どれも同じように売れてました。スタート当初は、『バカの壁』だけ特別売れたという印象はあまりなかったですね。でも、ふつうは1か月もたてば売れ行きは落ちるんですけど、『バカの壁』はずっと売れつづけてました。週に100冊以上はコンスタントに出ていて、そのペースは現在も続いてます。他の書店さんでは、バカ本フェアをやったところもありましたね」
バカ本フェア! そういえば、最近の新書には「バカ」がつくものが多い。新書じゃないけど『まれに見るバカ女』ってのもあったな。よし、これからバカ本の企画だ。「バカの手料理」「バカ・マーケティング」「バカほど英語がうまくなる」「その恋愛はバカになる」「そしてみんなバカになった」……
「バカ本の旬は2〜3か月前に過ぎさりました。もともと『バカの壁』が出る前から、バカをタイトルにした本は売れていたんです」
……時すでに遅し。私がバカでした。
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■『夏目漱石を読む』(吉本隆明/筑摩書房)
講演をもとに、漱石の代表的な12作品を論じている。日本最大の思想家、吉本隆明健在を大いにアピールした1冊。 |
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■『文化人類学への招待』(山口昌男/岩波新書)
岩波新書の定番。山口昌男は文化人類学の大スター。クラ交換、トリックスター論など、文化人類学の基本トピックを丁寧に論じています。 |
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■『歴史とは何か』(E.H.カー・岩波新書)
歴史学の定番新書。高校でも推薦図書になってたっけ。ケンブリッジ大学での連続講演をもとにまとめた1冊。 |
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