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女たちが、おじいさんに萌えている


おじいさんが好き
 
 
女性作家によるおじいさんと若い女性との恋愛小説を探してみた。
まずは、おじいさん萌えの金字塔的作品『センセイの鞄』(川上弘美)。37歳のツキコさんは、小学校時代の国語の先生であった70歳のセンセイと、駅前の一杯飲み屋で再会する。
「まぐろ納豆。蓮根のきんぴら。塩らっきょう」とツキコさん
「塩らっきょ。きんぴら蓮根。まぐろ納豆」とセンセイ。
“趣味の似たひとだと眺めると向こうも眺めてき”て、ふたりの関係はスタートする。全編、酒の肴と酒だらけ。本当によく食い、よく飲む。ふたりは肉体関係に到りはするけれど、すべてがぼわぼわ、あわあわと描かれ、ファンタジーめいている。老人然とした肉体の描写もほとんどなく、センセイは
“こげ茶色の上着を着ている。ベージュの無地の木綿のシャツ。薄茶色のズボン。センセイはいつもながらなかなかにお洒落だ。ループタイなどは、絶対にしない”
いくらおじいさんでも、ループタイはNG。基本であろう。


大道珠貴の芥川賞受賞作『しょっぱいドライブ』は、『センセイの鞄』のネガのような作品である。基本設定は似てるんだけど、表現に容赦がない。老いのリアリティも満載。
舞台は海に近いどこか地方の街。かまぼこ工場に勤めていた主人公は34歳。対する九十九さんは“六十一か二か三かそのあたり”の土地持ち。撫で肩で、腰が細く、天然パーマ、しかも内巻き。首にスカーフを巻いてて(しみ隠し)、星の王子様そっくり。とむちゃむちゃな外見の上、
“九十九さんの胸も脇腹も下腹も、どこもかしこもが筋肉がなく、七面鳥みたいにたるんでいる”
と脱いでも酷いが、
“先週、九十九さんと、しかかった。いや、した。たぶん、あれはしたことになる。”
と、奇妙な恋愛関係がある。九十九さんは、『センセイの鞄』のセンセイのように物知りな一面も見せるけれど、主人公は、そういうこといわせとけば上機嫌なのだと冷たく、尊敬したりしない。それでも一緒に暮しはじめる。老人との性生活にいたわる工夫を考えたりもして、一種のやすらぎに似た愛を見出しているようだ。

『ホテル・アイリス』(小川洋子)と『青空』(桃谷方子)は、少女とおじいさんの恋愛小説だ。
性愛小説的な『ホテル・アイリス』は、17歳の少女が70歳のロシア語翻訳家に「汚いメス豚」だの「口をつかって靴下を履かせろ」だの罵られたり命令されたりしてドキドキするが、母親に監視されているような生活をおくる少女が、老人とのSM行為にのめりこんでいく過程、少女を惑わしながら自ら破滅していく老人の姿に、不思議な純粋さがあって感動する。

『青空』では高2の少女と74歳の画家、伊佐治が近付いて行く。ことあるごとに性的な話題を持ち出す伊佐治に対して少女は、
“伊佐治にとってのセックスは追憶と創作。わたしにとっては想像と理想。二人とも実行がともなわないのだ。虚構なのだ。”
と考える。少女とおじいさんの性の質の近さを、適確に言い表わしていると思う。
なお、桃谷方子には
『百合祭』という、64歳から91歳までのおばあさんばかりが住む アパートに、74歳の男前なおじいさんが引っ越して来て、恋愛大パニック! というすごい設定の作品があり、これは必読。

最後に、恋愛小説ではないが
『インストール』(綿矢りさ)。大雑把に言えば、登校拒否になった高3の少女が、同じマンションの小学生とインターネットで「風俗チャット」商売をはじめたことをきっかけに、もういちど社会とつながっていく、そんなストーリー。学校へ行かなくなった少女は、じぶんの部屋の中にあるものをすべて粗大ゴミとして捨ててしまう。そんな大きな部屋の変化に、同居する母親は全く気付かない。その中で、ひとつだけ小学生に拾われ、修理され、少女との交流のきっかけとなるのが、死んだおじいちゃんからもらったパソコンなのだ。離れて暮していたおじいちゃん。接続の仕方がわからず、生前には結局一度もメール交換できなかったというパソコンが、ストーリーを引っ張り、少女の命綱として機能していく設定は、執筆当時17歳という作者自身の若さを考えても、とても興味深い。
   
『しょっぱいドライブ』(大道珠貴/文藝春秋)
『ホテル・アイリス』(小川洋子/幻冬舎)
『青空』(桃谷方子/講談社)
『百合祭』(桃谷方子/講談社)
『インストール』(綿矢りさ/河出書房新社)

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