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| 中村文則「土の中の子供」(3回目) |
当落予想 |
作品評価 |
| 大森○
豊崎 |
大森B
豊崎B |
豊崎 中村文則の「土の中の子供」かあ。Bつけちゃいましたけど……困ったな。
大森 なんで?
豊崎 この人、意外と小説知能指数は低いと思う(笑)。センスないんだよねー。ある意味「無花果カレーライス」より言いたいことはあるんですよ。いかにも芥川賞候補らしいという伝統的な純文学小説を書いてるんですけどね。例えば主人公が読んでいるのがカフカの『城』だったりほんと脇が甘い。あと幼児虐待なんてネタを持ってくるとか、作りがものすごくベタ。なかでもいちばん解せなかったのが、重要人物として出てくるちょっと変わり者の女の名前。
大森 白湯子?
豊崎 そう。白湯子だよ、さゆこ! なに? このネーミングのセンスのなさは! そんな名前つけるか、子どもに!(笑)。一瞬中国人かと思って「はくとうし」って読んじゃったよ。で、その白湯子病院連れてかなきゃダメかってほど泥酔して話すシーンがあるんですけど、酔っぱらいとは思えないほど理路整然としてるるんですよ。なんか、もー、いろんな意味で脇が甘過ぎ。B付けたけど、ダメだなって思う気持ちはDに近いくらいなんですよ。こういうのばっか書いてたら先がない。おじいさん作家たちが「これだよ、純文学は」って思う可能性はあるから、もしかしたらとるかもしれないけど。
大森 この人はたぶん天然だと思うんですよね。いろいろ狙ってこういうの書いてるんじゃなくて、自然にこういう風になってしまう。
豊崎 なっちゃうの!?
大森 まあ、それも強さではあるから。新潮新人賞からもたまには芥川賞受賞者が出ていいんじゃないかと思って、対抗を付けてみました。単純に生まれる時代を間違えたのか、あるいは別の時代に生きているのか(笑)っていう感じ。ま、そういう面白さがあるよね。
豊崎 たしかに天然なのかも。書きたいがままに書いてくからこその脇の甘さなのかもしれませんね。やっぱり候補になった、新潮新人賞の『銃』もそんな感じがありましたし。
| 樋口直哉「さよなら アメリカ」初 |
当落予想 |
作品評価 |
| 大森◎
豊崎◎ |
大森B+
豊崎B+ |
豊崎 で、今回は群像新人賞受賞作である樋口直哉さんの『さよなら アメリカ』をふたりとも本命にしてるんですけど、わたしは正直いって苦し紛れの◎。これは安部公房の『箱男』を前提として書いた小説ですよね? 最初ダメだったんですよねえ、なんか文章にノレなくて。“底なし沼のように深い空腹”とか“パンはジグソーパズルのピースをはめるように胃に納まった”とか“溶けたバターのようにきらめく太陽”とか、ああっ、もう勘弁してくださ〜い、脇の甘い比喩はっ(笑)。で、中盤ちょっと良くなって、後半また、こんなところに着地していくのー? っていう気の抜けた感じになる小説。
大森 これは「袋男」っていうタイトルにして欲しかったですね。
豊崎 そうそう! なんで「さよなら アメリカ」にしちゃったんでしょうね。「袋男」でいいじゃんって。「箱男」がいて「電話男」がいて、もーなんにでもなっちゃえばいいですよ、袋にでも電車にでもなんにでも人間はっ(笑)。あと、すごく最初の方に“なにせ、これは袋を被った人間の愛についての話なのだから。”ってあるんだけど、これそんな話? 愛についてなんて書かれてたんでしたっけー? と思っちゃったんですけど。
大森 ただこれ、手記なんですよね。主人公の袋男があとから事件を回想して書いてるという設定で、非常に特異なキャラクターの一人称だということを考えると、文章に変なところがあっていいのかもしれない。
豊崎 こんなキャラだから、そんな比喩も使うのかっていう風に読んであげるということもできるってことですよね。傍から読むとそういう話になってなくても、この男は愛について話してるつもりなんだ、と。
大森 注意深く読んでいくと、どこが客観的事実だと同定できるんでしょうかね。僕は袋女も大変良く書けていると思ったけど、これは妄想の存在だろうし。
豊崎 袋男の弟も?
大森 弟が微妙ですね。二重人格的にも読める。読みながらどこで線を引くのかなと思いはしたけど、いまいち真剣に謎解きをしようという気にならなかった。
豊崎 すべては脳内世界、袋の中の世界の話っていうことなのかな。弟についてあんまり説明されてないところは好ましかった。本当に種違いの弟なのかとは深くつきつめないでしょ、母親にも訊かないし。そういう曖昧な思考回路はこの小説世界の中では有効なんですよね。
大森 途中で病院かなんかに連れて行かれて、カウンセリング受けて、手記を書きなさいとか言われて、書いているっていうことだと思いますけど。
豊崎 ああ、やっぱり弟もいないんですよ。だって弟の死体が発見されてたら放火だけじゃなくてそっちの罪も問われるはずだから。袋女も弟も妄想なんですねー。
大森 そうですね。まあ、それはそれで(本格ミステリーの)パターンだし、だからどうといった感じでもないけどね。もっとミステリーっぽくするとか、いろいろやり方はあったと思うけど。それこそジーン・ウルフの『ケルベロス第五の首』みたいに。
豊崎 叙述ミステリーにするとかね。でもどうしよう、シンちゃん(石原慎太郎)あたりが「こんな袋かぶった女は現実にはいないっ!」とか怒り始めたら。池澤夏樹さんが「いやいや、最初からいないんですよ」とか解説してくれるのかな。でも池澤さんは、結構いじわるだから放置プレイにしちゃうかも(笑)。いろいろと物議はかもしそうですけど、それでも今回受賞作があるんだったらこれでしょうね。
大森 消去法で行くとこれぐらいしか残らない。
豊崎 A付けられないのは辛いけど、若いのにあの「箱男」っていうすごい先達を相手に勝負を挑んでるの、よく背伸びしたと褒めるべきでしょう。これがデビュー作って考えればマルですよ。次も読みたいなって思わせますもん。若い人で多少小説知能指数の高い人が現れてくれて良かったですよ。
| 松井雪子「恋蜘蛛」(3回目) |
当落予想 |
作品評価 |
| 大森
豊崎▲ |
大森B
豊崎C |
大森 で、最後が「恋蜘蛛」。縫い子の話だからテルちゃん好きかもしれないですけど。
豊崎 テルちゃん狙いの小説。
大森 でも、男の縫い子だからなあ。このコージだっけ? 天才的に刺繍のうまい男っていう設定は秀逸だと思いましたね。一心不乱に刺繍をし続けるカッコいい男を夢を持って描いた小説なんて、なかなかない。しかもその刺繍男は作家性みたいな幻想を持ってて、ただ刺繍が上手いだけじゃなくて、どうもなんかヘンだぞっていう。ダメアーティスト系のノリも入ってますよっていうところでもう1回ひっくり返す悪意がある。
豊崎 男の子が刺繍っていうのが。わたしもすごい◎なんですよ。ある種のオタク小説としても題材が新鮮、いい設定だなあと思って。大雨の日のエピソードがおかしかったですよね。刺繍男が龍のイメージをつかみに行くために江古田川に行くんだけど、嵐でメモ帳飛ばされちゃって、恋人に電話で“これから言うこと、そっちでメモってくれる? イメージ伝えるから”っての。あー、こういうダメなアーティスト志向の勘違いオトコっているいるという、ね。普通にさらっと読ませる恋愛小説じゃないんですよね。ちょっと気持ちが悪いっていうか、引っ掛かりみたいなものを読み手の気持ちに残す小説。
大森 ディテールがちゃんと面白く書けてる。前に候補になった「日曜農園」もインターネットの設定が面白かったんだけど、「恋蜘蛛」も刺繍のサイト立ち上げたら、死んだペットを刺繍して欲しいとか注文がくるところもリアルでね。ただ、今回は蜘蛛っていうメタファーがいかにもベタで……。
豊崎 そう、愛の巣、蜘蛛の巣なんてねえ。しかもモロに書いてますしね。“ここはふたりの愛の巣だったはずなのに。私は巣にかかった獲物であるような気がした。”こういうの書かないで、ほしかったなあ。“とうとう私は食べ尽くされて、小さな塊になりはてた”とか。
大森 「文学ってこういうの?」って感じで書いちゃった。
豊崎 書かないのが文学なのにね。でも、この人は小説知能指数は低くないような気がする。読んだ後に、あっ、松井雪子印だって感じがするんですよ。タイトルと著者名が消されてたとしてもちゃんとわかる。やっぱり芥川賞よりは、中島たい子さんとか絲山秋子さんみたいにOLとかから支持を受ける作家になっていったほうがいいんじゃないかな。
大森 微妙だね。松井雪子はそこまで万人ウケというよりもうちょっと濃度が濃い感じ。なにせ、作中に出てくるネットショップの店名が「夢の刺繍屋さん」ですからね。素人だとこういうダメダメな名前をつけちゃうよねーっていう意地悪なリアリティがある。
豊崎 そういう悪意がいい個性になってるんですよね。
▼まとめ
豊崎 でも、わたしはやっぱり受賞作なしでいくべきだと思う。今回はとにかく候補作選びがダメダメ。どうせならユヤタン(佐藤友哉)とか入れちゃえばよかったのに。『子供たち怒る怒る怒る』をテルちゃんやシンちゃんがどう読むのか知りたたかったなー。
大森 まあ、確かに今回はなんか印象がのっぺりしちゃってますね。どれ読んでもびっくりしない。
豊崎 ほんと保守的でつまんない。三島賞の方が気持ちが盛り上がったなあ。
大森 しょうがないですよ、それが芥川賞ですから。 |
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| メッタ斬り!版 第133回 芥川賞、直木賞選考会 |
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