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――もうひとつ、柳下さんの仕事で、忘れてはならないのが「殺人研究」です。猟奇殺人鬼の研究に関しては日本のコリン・ウィルソンかロバート・K・レスラーか、という感じですが、どうしてまた殺人研究を?
みんな好きでしょ、普通に。ワイドショーとか殺人ネタばかりだし。
――エクスプロイテーション魂あふれるお答えですね。『殺人マニア宣言』では、「アメリカン・ポップ・カルチャーの息子として育った人間であれば、その奥底まで知りたいと思うのは当然だろう」と、殺人マニアになった理由を書いていますが。
理屈をつけて難しく語ることはできるんですけど、そういうことしてもねえ。映画でも殺人でもそうなんだけど、面白いのはディテールなんですよ。事実の肌触りというか。でも、学問にして理論で語ってしまうと個々の事例の変な部分は捨象されてしまう。面白いのは突出した妙な部分なんだけど、理論で語りはじめると、変な部分を捨ててしまうことになる。それだと意味がないから、なるべく引っかかってくる部分を残したい。そのためにどうするかって考えてるわけですが。殺人事件の現場を訪ね歩いたりして。あんまり意味ないんですけど。
――実際の事件はフィクションよりも奇なりですもんね。テッド・バンディも、IQの高いハンサム殺人鬼といういろんな映画の元ネタにはなっても、そのまま映画化はできない。
映画にすると、あまりにもできすぎた話で、「ありえねーよ。こんな話」って言われて終わり。「でも、本当の話なんだけどな」っていう(笑)。
――何かきっかけがあって、殺人に興味を?
目の前で人が殺されるのを見てトラウマになったとか、そういうことはないです。もともと興味はあってコリン・ウィルソンの本とかは読んでましたけど、決定的にマニアになったのは、『映画宝島 地獄のハリウッド!』を作ったときですね。町山(智浩)から、「英語読めるんだから、これ読んでよ」ってアメリカの殺人ネタの本を大量に読まされたんです。それが面白くってハマっちゃったんですねえ。
――『地獄のハリウッド!』は、「ファビュラス・バーカー・ボーイズ」が誕生した場所でもありますね。ところで、殺人系でひとくくりにするのもなんですが、『ジェノサイドの丘』も大量虐殺の話ですね。
これは割とマジメに、別に他がマジメじゃないってわけじゃないんですが、これは「やんないとまずい」と使命感にかられて訳しました。最初、某出版社から下読みを頼まれて、読んだら凄い本だったので、「これは日本でも出版しないと」ってレジュメを書いたんですけど、「アフリカで起きた虐殺の話なんて売れない」って理由で企画が通らなかったんですよ。でも、これは「ルワンダで100万人も虐殺されたのに、国際社会が見殺しにした」っていうことを告発した本なんですよ。それが「売れそうにないから」って出版されないのはあんまりじゃないかと柄にもなく義憤にかられまして、いくつか出版社を回ってやっと出してもらったんです。
――そういう経緯だったんですか。
アフリカの話だから関係ないんじゃなくて、これはどこでも起こりうる、普遍的な話なんだと思います。僕らだって、違う民族のことを「あいつらは敵だから殺せ」って何十年も言われ続けたら、簡単に人を殺せるようになってしまう。実際、関東大震災のときの朝鮮人虐殺から百年もたってないわけだし。
――猟奇殺人鬼だって他の人と変わらない、ちょっと壊れただけの普通の人間で、自分もいつあっち側になるかわからない、ということを『殺人マニア宣言』で書いてますね。
みんな自分のことを信じてるんだと思うんですよ、自分は人殺しなんかしないって。そういう人は本当に幸せな人ですよね。
――『變態性慾ノ心理』でも、ここに出てくる変態は他人事じゃなくて、今この本を今読んでいるオマエの姿なんだよ、という柳下さんのメッセージがひしひしと伝わってきましたっ! 殺人とか変態とかテーマとしてはおたくっぽいことをやっているようでも、柳下さんの姿勢は外向きですよね。そういえば、永江朗さんは『批評の事情』(原書房)で柳下さんのことを「社会に開かれたおたく」と評してますね。
まあそれはどうなのかわかりませんが(笑)。ただ、ぼくは基本的にはおたくなものはつまらないと思っています。「おたくの中だけで完結していてはダメなんじゃないか。どこかで現実に帰ってこないと意味がないんじゃないか」って。SFはもともとおたくじゃなかったんですよ。あれはカウンター・カルチャーの一部であり、当時のロック、ドラッグ、サイケデリック革命と結びついていたものだった。SFも、映画も、アニメも若者文化のひとつの要素だった。だけどいつの間にかそうではなくなってしまったわけです。どんどんおたく化が進んでいって、そのジャンルの中で完結してしまうようになる。でも、本来はそうじゃなくて、SFというのは現実を照らし出すための道具のひとつだった。ロックもサイケデリックもみんなそう。映画も、ぼくが好きなような映画はとくにおたくの偏愛対象と思われてるふしがありますよね。でも、おたく的な研究をいくらやってもつまらない。結局は重箱の隅をほじくりかえすだけだし、わかってる同士でうなずきあっておしまいみたいな感じですよね。それよりは興味も持ってなかったような人を驚かせて、相手の価値観を変えてやる方が楽しいかな、と思うんですよ。だからこそ「これが映画の本道だ」なんて本を書いて足掻いてみたりするわけなんですけどね。
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■『殺人マニア宣言』(2003年、ちくま文庫)
『世界殺人ツアー』(1998年、原書房)に書き下ろしを加えて文庫化。おなじみ切り裂きジャックやエド・ゲインらシリアル・キラーたちの足跡を追った第1章「巡礼の旅」、映画のモデルになった殺人鬼たちを紹介する第2章「殺人を読む」など猟奇満載。
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■『映画宝島 地獄のハリウッド!』(1993年、編集・執筆・雑用 町山智浩、編集補佐 柳下毅一郎/JICC出版局)
柳下さんは「1、2、3、4、5、6、7…いい女優はみんな天国にゆく」、特別付録「実録 映画になった猟奇犯罪カタログ」のピーター・キュルテンとテッド・バンディなどの執筆を担当。ファビュラス・バーカー・ボーイズの記念すべきデビュー作。
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■『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実』(2003年、フィリップ・ゴーレイヴィッチ著 柳下毅一郎訳/WAVE出版)
1994年、アフリカの小国ルワンダで起こったフツ族によるツチ族の大量虐殺。わずか100日間で80〜100万人が殺されたにもかかわらず、国際社会から無視された事件の真相に迫った本。
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