インタビュー山形浩生、山形浩生はいかにして作られたか

クルーグマンを知り、経済に開眼!
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――「お金は卑しい」と思っていた山形さんが、シンクタンク系の会社に就職したというのは?

大学院にいるときに、研究室で中野区の居住環境の改善プランみたいなことを請け負っていたんです。たとえば僕たちは、物理的なデザインの観点から、道路をこうしたほうがいい、木を植えたほうがいいなんて話をするんだけど、会議に参加すると、ロクに話を聞いてもらえない。実際に動かすのはお金なんだってことがよくわかりましたね。それで、やっぱり就職するのであればお金をいじるような民間企業がいいのかなと。で、シンクタンクはそういうこともやりつつ、大学の続きみたいなもんだと半分思っていたので。実際は違いましたね。

ちょうど会社に入ったのは、バブルの翳りが見えたころ。でも、誰も下がるとは思ってなかった。テーマパークを作りたいなんてイケイケの案件がけっこうありましたね。ディズニーランドが成功して、ハウステンボスやらオランダ村に続けと、デンマークビレッジだとか口にするのも恥ずかしいようなプランがあったんですよ。そのマスタープラン作りって、インフレがあることを想定して、宿泊料や入場料も少しずつ上がるように設定するんです。で、当時は毎年宿泊料が3%ずつ上がるとか、3年に1回10%上がるとか、それが標準。

――今では考えられない数字ですね。

それでも収支がキツイと率を上げていくんです。最大で5%。そうすると、20年後にはホテルの宿泊料が1泊20万円ぐらいになる。「大丈夫でしょうか?」って上司に伺いをたてると、「日本経済は強いから大丈夫」って。そんな計画をいくつか作っているうちに、次々と潰れ始めた。翌日の週刊誌でクライアントが倒産していたり。

そうやって段々経済情勢が厳しくなっていくと、お金の話も細かいところを突っ込まれる。次第に、自分が生半可にしかわかっていないことがわかってきて、そんなとき会社の留学制度でMITに行かせてもらったんです。その折に、『クルーグマン教授の経済入門』の原書をMITの本屋のゾッキ本の棚で見つけまして。ひさびさにミもフタもない書き方と対面して、「経済ってそういうことが言いたいのね」ということが、かなりよく見えてきました。それがわかって経済学の本を見直すと、いままでとは理解度が全然違う。どこで眉に唾をつければいいかという勘所がつかめるし、余計な無駄足を踏まなくて済むようになりましたね。それで、これを皆様にも分け与えてやろうではないかと。

――そのころから山形浩生という名前が急速に知れ渡っていきましたし、無敵の論客として八面六臂の快進撃が始まりましたね。

僕は無敵じゃないですよ。しょっちゅうヤラれてます。むしろあっさり間違いを認めるほうで有名だと思うんですが。

――そ、そうなんですか。では、山形さんに議論で勝つためにはどのような手が有効でしょう?

社交性がないから、具体的な話に降りてくると弱い。「現実的には〜」と詰められるともろいですよ。あと、僕はたいがいのテーマについて、大体のことはわかるんだけど、細かいことがわかってないことがままある。訳した本に書いてあったことを鵜呑みにすることもあるので、そういうのを見つけて突付かれるとあっけなく崩れます。

――なるほど。今年は、『たかがバロウズ本。』のほかにも、山形訳『不思議の国のアリス』『環境危機をあおってはいけない』など続々と著書、翻訳書が出ていますが、今後発刊予定のものはありますか?

クルーグマンの調整インフレ論の論文をまとめて、アンチョコをつけた本を年内には必ず出します。日本の株価が上がって、ちょっと時期がね。いや上がっていいんだけど。

――楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。
山形浩生の仕事!
『クルーグマン教授の経済入門』(山形浩生/メディアワークス)
翻訳啓蒙家としての山形浩生を世に知らしめた1冊。訳注サービスや訳者あとがきも充実。公式サイトではクルーグマンの各種論文の翻訳を掲載中。
『たかがバロウズ本。』(山形浩生/大村書店)
バロウズ研究の決定版。「一撃必殺。伝記、だけじゃない。作品、だけじゃない。それもこれも、文章の話も、技法の話も、取り巻きどもの話も、外野の話も、社会の話も、経済の話も。まじめな話も、ふまじめな話も、まじめくさったとんでもない冗談も」すべてぶちこんだ最初で最後のバロウズ本。
『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル著/山形浩生訳/スソアキコ絵・朝日出版社)
フリー翻訳運動
「プロジェクト杉田玄白」の公開作品を単行本化。「桃尻語訳 不思議の国のアリス」といってもいいかも。新しいアリスの誕生。サイトでは『鏡の国のアリス』も公開中

(取材・文 斎藤てつや/サイトー商会)

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