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words by スズキトモユ/illustration by kashmir バックナンバー
このマンガ好きだったらこの小説読んでみなよー。この小説が面白いんなら、このマンガ、絶対おすすめ。そんなふうにおもしろい本の世界を倍々でひろげていきます。第22回は味と記憶のミステリー!なマンガと小説を!

第22回 味と記憶のミステリー対決!『喰いタン』vs『記憶の食卓』

「なんちゅうもんを食わしてくれたんや… なんちゅうもんを…」

『美味しんぼ(8)』
(雁屋 哲, 花咲 アキラ /小学館)

とは、『美味しんぼ』に登場する京極さんの台詞。

単行本8巻収録の「鮎のふるさと」は、足を痛めて入院していた京極さんの退院祝いに、山岡と海原雄山が鮎のテンプラ勝負をするというエピソードです。
結果は山岡のボロ負けで、雄山のテンプラを食べて感涙に咽ぶ京極さんに「これに比べると山岡さんの鮎はカスや」とまで言い放たれます。現地に出向いてまで最高の鮎を入手したのに……。
京極さん以外には甲乙つけがたい、とされた山岡と雄山のテンプラ。なぜこんなことがおきたのでしょうか?

プルースト『失われた時を求めて』の主人公は、紅茶に浸したマドレーヌの香りをきっかけに幼少時代の記憶を蘇らせます。
特定の匂いがそれにまつわる記憶を誘発させるという現象を「プルースト現象(効果)」と呼びますが、京極さんの感動もこの現象によるものでした。

雄山は京極さんの故郷、四万十川の鮎をテンプラにすることで、京極さんの遠い過去の記憶を呼び起こさせました。
京極さんのボロ泣きも、じつは嗅覚・味覚と記憶のメカニズムによるもので、それってテンプラの出来以外の部分で勝負してるだけじゃん! ずるいなあ、雄山は!

というわけで(?)今回は味と記憶のミステリー2作品をご紹介。

このまま『美味しんぼ』を紹介してもいいのですが、究極とか至高とか日本全国味巡りとか、すべてがうやむやになった最近の展開は正直いかがなものかと思うので、もっと活きのいい作品をご紹介しましょう。

『喰いタン』寺沢大介(4巻〜)/講談社イブニングKC

寺沢大介といえば、料理マンガの草分け『ミスター味っ子』の作者として有名です。
現在は講談社イブニング誌で、陽一の息子である陽太が活躍する『ミスター味っ子2』を好評連載中ですが、同誌で並行連載中のもうひとつの料理マンガシリーズがこの『喰いタン』。食って食って食いまくってついでに事件を解決する探偵の物語であります。

物語の主人公は高野聖也。世にも珍しい食い倒れ探偵です。
ただグルメな探偵といえば、ネロ・ウルフ、パンプルムース氏などいろいろ名前が挙がりますが、犯行現場の料理を食い尽くして事件の真相を当てる探偵は世界にもこの人だけでしょう。(明らかに証拠隠滅であります)

白いテープが床に貼ってある台所で、冷蔵庫の料理を勝手に盛り付け、ワインも開けて、あまつさえレンジでチンして嬉々として平らげる。社員食堂でも、お祭り会場でも、パーティー会場でも、とにかく食べる。食べる。食べる。最近では平気で100人前くらい食べてます。『喰いしん坊!』もビックリです。
デザートを食べては事件の真相を見抜き、カツを食らっては消えた凶器の謎を解く、一本のソーセージから殺意を見抜き、出前の寿司からアリバイトリックを崩す。
食いのダイナミズムと緻密な推理の対比で見せる稀有の料理ミステリマンガだといえましょう。
ワトソン役の秘書・京子クンも可愛らしくてよろしいです。(3巻にはサービスシーンもあり)

『ミスター味っ子2』開始により連載を一時中断してましたが、無事再開。ひさびさの最新4巻がこのたび発売となりました。大食い好きのアナタもミステリ好きのアナタもぜひお手に取られてはいかがでしょうか。

『記憶の食卓』牧野修/角川書店

人がけっこう死ぬわりには出てくる料理が美味しそうなところが『喰いタン』の不思議なところですが、それとはまったく逆のベクトルで「食」にまつわるホラーミステリになっているのが『記憶の食卓』。名前を聞けば、ああ、と思う牧野修の最新作であります。

「匂い」と「電波」を鍵に世界を変容させてみせた『アロマパラノイド』など、牧野修作品はいつもイヤな具合に日常をどろどろ溶かします。それは今作『記憶の食卓』でも同様で、ふと気付けば、地獄、というあの感覚が味わえます。

物語はふたつのパートにより語られます。
名簿屋に勤める男が見慣れない名簿の中に自分の名前を見る。持ち帰って調べているうち、最近連続する猟奇殺人の被害者たちがその名簿に名を連ねていることに気付く。この名簿はいったい? そして俺も狙われているのか? というハードボイルドタッチのパートがひとつ。
そして「遠藤悟一の憂鬱」と題された、食べるという行為を忌み嫌う小学生が「ボーシ屋」なる怪人に遭遇するホラータッチのパート。

死の美学を物語にするホラーというジャンルにおいては、生きる糧となる食が忌み嫌われても当然なわけで、ならばこの『記憶の食卓』はまったく正しい展開をみせているといえましょう。失われた記憶と、自分以外の生命を喰らって生きる、ということと。「なんだか理由はわからないけれど、チャーハンが食べられないだよな」という設定がここまで不気味に感じられるのは牧野修ならでは。
基本的に掛け合いで進行するテンポ良い展開は牧野修初心者の方にもオススメです。

さてさて。味が解き明かす真相/味が蘇らせる記憶。それはあなたにとって甘く楽しいもの? それとも苦くて辛いものでしょうか?

本の妖精トモトモ

(文・スズキトモユ/見下げはてな 絵・kashmir/lowlife

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