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ニートという言葉にはマイナスの意味しかないのか? いやおおむねマイナスだとしても、何かしら良い面があるのではないか? ニートのエリート、いいニート、そんな道もどこかにあるんじゃなかろうか。などというしょうもないことを模索する連載。今回は南下することで心の平安を手に入れるというオハナシ。

第七回 ニートカップルもっと南へ 『ホテルアジアの眠れない夜』の巻

移住編の第二弾である。田舎に移住といっても日本国内であるならば、住居費以外の生活にかかる費用はさほど変わらない。だがその目を海外に向けるならば、物価格差を利用して少ないお金で断然豊かな生活が可能だ。

タイ安宿の優雅な暮らし

インド・アジア方面と貧乏旅行のカップリングというと、汗と涙と激しい好奇心を友としてアツく放浪するイメージが根強いかもしれない。しかし実情は、一カ所にどっぷり腰を落ち着けてしまい(「沈没」と言うらしい)、ニートっぷりを海外でアピールするかのような度を越してぐうたらな日々を送る人々が大勢いるらしいのである。『新潮45』2005年6月号に載った下川裕治「「外こもり」の人びと タイ日本人宿のNEETたち」から、バンコク・カオサン地区の安宿に集う人達の生活ぶりを引用してみる。

目覚めるのは早くて昼頃。午後二時、三時という人も多い。屋台で十バーツほどの麺をかき込み、なんとなくあたりをうろついて日本人の溜まり場に集まってくる。いまだったらカオサン・トラベラーズ・ロッジの食堂が多い。その頃はもう夕方で、ビールの輪に加わるか、アイスコーヒーでのおしゃべりが始まる。そして腹が減ると、カオサンの中にある安い日本料理店か屋台に向かい、そこで漫画を読みながらの食事かおしゃべり。午前二時頃に宿に戻り、本や雑誌を読んで午前五時頃に寝る。

十バーツというのはだいたい三十円弱ですかね。気になる一ヶ月の生活費をやはり「「外こもり」の人びと タイ日本人宿のNEETたち」から引用。

一日にかかる費用は、ゲストハウス代を含めて三百バーツほど。日本円で八百円。ビールを少し多めに飲んだ日は五百バーツになることもあるというが、これでも千四百円。一ヶ月滞在しても、カオサンでの生活費は三万円前後で済んでしまう。

さらに海外旅行保険代や、もちろん往復の航空運賃もいるので、一回に三ヶ月滞在すると仮定した場合実際一ヶ月あたりの費用は5〜6万円といったところだろうか*1

気分は「永遠の旅行者」

さて海外ぐうたら生活が可能なのはどんな人たちだろう。もちろん一年のうち数ヶ月を日本でハードにアルバイトをこなし、貯めたお金で海外でまったり過ごすというパターンが王道なのだけど、それはeニート塾のコンセプトに合わないので除外させていただくと……。

トレーダー、プログラマー、イラストレーター等のタマゴ(?)で、在宅で働いているがあまり仕事(成果)が無く、かろうじて月額5万円程度の収入がある人(ただし打ち合わせと納品が全部メールでできることが条件か)。所謂ネオニート予備軍。
失業手当は切れたが少々貯金があり、とりあえずそのお金でできる限り長くのんびりしたい人。ニート予備軍。
五人にひとりと言われている、仕送りをもらって一人暮らしのずばりニート君。
学生時代に海外旅行にハマった経験のある人がニートな境遇になってしまった場合、たぶんこのようなことは実行しているのではないかと思う。しかしこういった貧乏旅行を経験せずニートになった人が、安上がりに暮らせるからという理由でポンと旅立てるかというとなかなかそうもいかないだろう。そういう人はとりあえず旅行記を読んで疑似体験してみたらどうだろうか。

One day,one thing

貧乏旅行記のバイブルと言えば『深夜特急』で、実際内容はとてもおもしろいが、沢木耕太郎のアツさにニート君は感情移入出来ないかもしれない。それにちょっと時代も古すぎる。なのでここは蔵前仁一の著作をオススメしておこう。彼はイラストレーターでありながら一年にも及ぶ長期貧乏旅行をたびたび行っている人で、仕事を終わらせることができず旅行に出発する予定が半年もずれこんだり、旅先で無理な姿勢でイラストを書きぎっくり腰に見舞われたり、脱力するエピソードが目白押しだ。

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『ホテルアジアの眠れない夜』()
たとえば『ホテルアジアの眠れない夜』に載っている「一日一事(ワンデイ・ワンスィング)」と題されたエッセイには、「今日は洗濯をやったから、もう終わりだな」「今日は手紙を書いて郵便局に行ったから、仕事は終わりました」と言い合う長期旅行者の姿が描かれている。時間の流れが違う旅先でついのんびりしてしまう旅行者に、日本にいながら違う時間の流れにはまってしまったニートな人々は容易に共感できるだろう。

また引用した記事を書いている下川裕治の著作も脱力系として外せない。ちょっとひねくれた人にはクーロン黒沢の旅行記も良いかもしれない。

誰にも邪魔されない解放区

そして最後に、たぶん金銭面以上に海外で暮らす大きなメリットについて。もう一度「「外こもり」の人びと タイ日本人宿のNEETたち」から、カオサン地区に集う人々の言葉を引用しよう。

「俺たちのようにぐーたら生活やっていても、周りのタイ人が変な目で観ないってのもいいね。だいたい彼らもぐーたら生活なんですから。ようやく誰にも邪魔されない解放区を掘り当てたって感覚、僕にはあります」

ニートという言葉が昨今のようにクローズアップされるのは、日本がそういう存在を許さない社会だからだ。タイ以外にも仕事をもたない若者がフツーにぶらぶらしている国はいくらでもあるし、日本だって昔は居候や書生といったわけのわからない身分の若者は多かった。過去の日本や諸外国は社会が貧しく碌な仕事が無いから仕方がなくて、現代日本のニートは単なる身勝手だなんて言うのはいくらなんでも無理がある。

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日本のニート暮らしに閉塞感がある、不安が襲ってくる、面白くない、周囲の視線がいやだ等々感じるひとは、気分転換に海外にふらっと出かけてみるのも、悪くないのではなかろうか。しかもお金の節約になるならば一石二鳥である。

*1:長期にわたるビザの取得や旅行保険に入るにはそれなりのワザがあるらしいのだが、それは各自検索していただきたい
 

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