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words by 矢部智子 バックナンバー
街中にある本棚を探すさすらいの連載第三回。駅のなかによくあるミニ図書館ですが、根津駅のそれは、なんと電車型なんですよ、かわいい!

第3回 駅の中の小さな電車が本棚です 千代田線根津駅「根津メトロ文庫」(前編)

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根津駅で電車を降りたら、改札の前にもうひとつ小さな電車がとまってた。シルバーの車体に千代田線のシンボルーカラーの緑のライン、屋根にはちゃんとパンタグラフまでついている。この小さな電車、実は本棚。駅のなかにあるミニ図書館「根津メトロ文庫」なのだ。

運転席風の1両目は、大人ひとりがようやく入れるくらいの広さがあり、壁面をぐるりと文庫が並んだ本棚に囲まれている。続く2両目は側面が本棚、1両目と2両目の連結部分は返却棚になっていて、誰かが返したばかりなのか、3冊の本がポンと無造作に置かれていた。1両目の扉をあけて中にはいると、進行方向(?)に大きな窓が開いている。そこに立つと、このまま電車が走り出しそうな気がして、なんだか楽しくなってくる。

駅の利用者がいつでも自由に借りたり返したりできる「駅の図書館」というと、田舎の小さな駅を想像しがちだけれど、都心でもときおり地下鉄の駅などで本棚らしきものを見かけることがある。といっても、たいていは4、5冊が棚の隅っこに置いてあるだけだったり、本があっても手を出すのをためらうほど汚れていたりして、「ああ、図書館にしたかったんだろうなあ」という哀しい余韻を残すタイプがほとんど。ところが、である。「根津メトロ文庫」は小さいながらも棚いっぱいに本があり、文庫とそれ以外のものに分類、さらに「あ行」「か行」といった仕切り板で作家名順に並ぶというふうに、見た目のかわいらしさだけでない、なかなかの本格派なのだ。

駅員さんにうかがったところ、この電車型本棚ができたのは、今からもう15年以上も前のことなのだとか。あるひとりの駅員さんが丹精こめて作ったもので、部品のいくつかは、実際に使われていた廃材を利用しているのだそう。そして本は、近所に住むある方がボランティアで、週に1〜2度きて整理されているのだという。

「できたばかりのときは、NHKからなにから取材に来て、そりゃ大評判だったんですよ」と駅員さん。その頃ほどではないかもしれないが、今も人気は健在のよう。私が見ている間にも、足をとめて棚に見入る人がひっきりなしに訪れていたし、ある男の子なんて、まるで公園に来たみたいに夢中で出たり入ったりして遊んでいた。

気になる返却率について聞いてみたところ、「うーん、10%いくかどうか。昔は、ちゃんと返す人が多かったんですよ。でも年々、そういう人が減ってきてる気がしますね」。作った人や管理している人の思いはずっと変わらないのに、利用する人の良識だけ変わってしまったなんて悲しいな……そう思いながら、駅の事務室を出てもう一度本棚を訪れてみたら、さっきと何かが違っていた。返却棚にあった辻仁成が、渡辺淳一に変わっていたのだ。30分もしないうちに、誰かが本を借りていき、誰かが本を返していったのだろう。街に根付き、人々に親しまれている本棚の、「呼吸する瞬間」が見れたような気がしてうれしくなった。
<後編はこちら>
(文・矢部智子)



根津メトロ文庫
東京メトロ・千代田線根津駅構内

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