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非モテ人間は現代の被差別階級なのか? 異性を発情させるのがそんなに偉いのか? 文学を手がかりに、いっそ、非モテライフをエンジョイする方法を探っていこう! 今回のテキストは、不器用な手品青年のお話です。
第21回 マジック・ハラスメントにご用心――吉行淳之介『手品師』の巻
とあるバラエティ番組で「飲み会で嫌いなこと」というテーマでアンケートをとったところ、「マジックを見せられること、驚きを強要されること」が一位になったそうです。興味がなくても注目してあげないわけにはいかない、そもそもどこが驚きどころなのだかわからないとイライラしてしまう人も多いらしいマジック宴会芸。マジック・ハラスメント、略してマジハラという言葉が定着するのも時間の問題かもしれません。とはいえ、手品を見せるということでしか他人と交われない、そんな器用なんだか不器用なんだかわからない人もいるのです。吉行淳之介の短編『手品師』(『純愛小説名作選』収録)に出てくるのはそういう童貞青年です。
小説家の倉田が一人バーで飲んでいると、愛読者を名乗る青年に話しかけられました。文学青年ならではの気負った話しぶりを鬱陶しく思う倉田に対し、青年は倉田が宿泊しているホテルへ出張して手品を披露したいと言い出します。つい好奇心から青年の申し出を受けた倉田は、手品をホテルのロビーで見物することになりました。
倉田はそのささやかな手品を眺めながら、一人の詩人についての挿話を思い浮かべていた。その秀れた詩人は、厄介な人間関係に巻き込まれたあげく、妻に去られ、孤独な晩年を送った。幼い娘が一人いた。ある夜、娘が二階の書斎を覗いてみると、机の前に坐った詩人がしきりに指を動かして、赤い指の玉の練習をしていた、という。
倉田はその挿話を聞いたとき、詩人の孤独感が身に沁み込み伝わってくるのを覚えた。だが、いま眼の前にいる少年の面影を濃く残した男の顔は、得意気な表情で愉しそうに輝いていた。
倉田は齧りすぎてボロボロになった青年の爪を見て、この手品青年の「陰気な孤独」を垣間見ます。彼が輝くのは唯一、マジックを披露している時のみとみえます。手品の話題なら憧れの作家と対等に話せる、と浮かれた青年はその後も倉田をさかんに手品ショーに誘いますが、倉田は断固拒否。青年はすぐさま反省して速達で謝罪文を送るのでした。
どうも、ぼくは自分の気持の表現法が下手です。あるいは、童貞のせいかもしれない、とおもうことがあります。どこかで捨ててこようと考えるのですが、ぼくは英子(いつかの酒場の子です)に恋しているので、それもモッタイないような気がするのです。
また余計なことを言ってしまったのかもしれません。ぼくは、自分をもてあますことがしばしばあります。ぼくは十九歳です
手紙を読んだ倉田は自分の青春時代を懐かしく思い出します。同情した倉田は英子に青年に対する気持ちを確かめてみましたが、「頼りない」とバッサリ。まあ、水商売でオヤジをあしらいなれている女子から見ればそうでしょうね…。
それから一ヵ月後、青年から「ぼくの考案した奇術を見ていただきたいのです」という電話がかかってきました。招待された倉田と英子は彼の下宿で水槽脱出マジックを拝見することに。しかしカギつきの水槽に閉じ込められた青年は、いつまでたっても出て来る気配がありません。トリックがないことに気づいた倉田は、あわててカギを外して失神した青年を引っ張り出します。英子に男がいることを知った青年は、彼女の前で自殺しようとしたのでした。これほどのマジック・ハラスメントがあるでしょうか……。
一ヵ月後、青年は倉田にこんな手紙を送ります。
「オレは絶対に二十歳になるまでに童貞を失ってやるぞ」と同僚に言ったものですが、いざとなると怯えてしまいます。眼の前に餌があるのに、首を縄で縛られているために、食べられない牛のようです。いや、べつに縄などありはしないのですが。まわりはみんなうまくやっているのに、自分だけが取り残されている苛立たしさがあります。それにまた、ぼくの寝起きしている部屋の隣では、男と女が一しょに住んでいて、夜中になると妙な声が聞えてきて、気が狂いそうです。踏み込んで行って引倒してやりたい気持ちです。会社の三つ年上の人は、あのことを「いいもんだぞ」とほのめかすし、今のぼくは十字砲火を受けているようなものです。
(中略)先日はほんとうに失礼いたしました。ぼくは恥ずかしい
職場ではラブハラ、家に帰ればギシアン。悩めるマジハラ青年の手紙に、「こういう時期があるものだ」とクールにつぶやく倉田なのでした。(勝手な思い込みですが)イケメン&ヤリチン作家という印象が強い吉行淳之介にもこんな思春期があったのかしら? と思わせるラストです。他人との距離感がうまくつかめずに暴走してしまう青年の孤独が思春期というものなら、これから出会うかもしれないマジック・ハラスメントも優しく見守ることができる……かもしれません。
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