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非モテの文化誌
words by demi/illustration by ささこ バックナンバー
非モテ人間は現代の被差別階級なのか? 異性を発情させるのがそんなに偉いのか? 文学を手がかりに、いっそ、非モテライフをエンジョイする方法を探っていこう! 今回のテキストは、“恋愛教の教祖”が青春時代に描いた非モテ女子高生の赤裸々告白!

第18回 80年代非モテ少女の逆襲――柴門ふみ『愛して 姫子さん』の巻(前編)

トレンディドラマ『東京ラブストーリー』の原作者にして数々の恋愛論をものしている“恋愛教の教祖”柴門ふみ。しばしば恋愛至上主義の元凶として目の敵にされることもある彼女ですが、80年代初頭に発表された『愛して 姫子さん』を読めばそうした評価は一変するかもしれません。彼女は非モテ女子の鬱屈を青年誌に叩きつけた、言ってみれば非モテ女子界のチャレンジャーだったのです。

主人公のブスでひねくれている女子高生の姫子。彼女はイケメンのスポーツマンと美女とのカップリングをくやしがるクラスメートたちに、学校における階級制度を説きます。「あたしたち高校生にとっては一クラス=一国家=一宇宙である」「美男・美女・優等生・スポーツ選手は特権階級」「なんのとりえもないあたしみたいなブスたちは庶民階級」「原島と夏木の結びつきはさしずめ特権階級内の平和なできごとである」

そこへ別のブスがかみつきます。
「姫子あんたはその階級制に疑問を感じないの!?」「庶民(ブス)と特権階級(ハンサム)の結びつきによって階級制を打ち砕く革命があってもいいじゃない!」
「すごい!あんたその考えは弁証法的発展の論理よ」

スクールカーストについて熱く語り合う少女たち。クラス内階級問題は、四半世紀前の少女たちにとっても大問題だったのです。というより、狭い共同体の中での権力関係に汲々とするのは、昔は女子の専売特許だったのかもしれません。地域づきあいしかり、OL同士の見栄の張り合いしかり、嫁姑問題しかり。行く末は主婦と決まりきっていて、共同体からの脱出がほぼ不可能であることを知っている彼女たちの関心事は、その外部にはなかなか向かわないのです。

姫子はそうした狭い世界に閉じ込められていることに苛立っている女子高生の一人です。

「そうよ おもしろくない人間どもはみんな子クジラ爆弾に当たって死ねばいい」

退屈な日常から脱出したいと願う姫子は、自分の処女を見知らぬオヤジに売ろうとまで考えます(失敗しますが)。おまけにゲイの美少年まで登場するとあっては橋本治『桃尻娘』の影響を考えずにはおれません。

モテるブリッコをひがんだり、「スポーツマン以外は男でないのと同様美女以外は女でなし」というスポーツマンに復讐しようとしたり、頭の悪いイケメンに群がる同級生たちの心理を分析したり、姫子の暗さは底なしです。しかし女の子はみんな暗いのだと姫子は言います。

「女の子はみいんな実は根が暗いのよ!」「17 18にもなって何のくもりもない明るさ100%の女の子なんているもんですか」「一見明るくふるまってもみいんななにがしかの暗さをもっているのよ」「だけど今の社会女の子の最高の美徳は『明るさ』でしょ」「だから女の子はみんな暗さを見破られるのが一番恐怖なのよ」

「明るさ」を「モテ」に言い換えれば、現代社会における非モテ女子の見えづらさの説明にもなりそうです。「30代の独身女性のうち、4人に1人が処女である」という統計結果にもあるように、30過ぎて恋愛と無縁の女子はいくらでもいるはずなのに、彼女たちの声が聞こえてくることはほとんどありません。建前上は「モテ」よりも社会的能力が重視される男子に比べ、女の子の最高の美徳が「モテ」であると公然と認められている今の社会で、性的魅力が全くないと見なされることは未婚女子にとって一番の恐怖になりえます。それは生殖能力もなく、社会の担い手である男性を発奮させる能力もない「女ですらない生き物」として排除されうるということだからです。「ブス山さん」(by伊集院光)はD.T.たちからも嘲笑の的。こうした事情に子どもの頃から直面させられている女子が「非モテで何が悪い」と開き直るには、相当の勇気が必要です。これが『電波女』 や(『D.T.』ならぬ)『S.J.』が出版されない所以だろうと思います。

さて、80年代はまだ少女たちの「白馬の王子様」幻想が生き残っていた時代。

「『王子様と結婚』!! 女の子の永遠のテーマね」
「でもはたして王子様と結婚することが女の子の最大の幸福かしら」

そこへ「当然よ!! 女と生まれたからには王子様を待ち続けるべきよ」と乱入してきたのはクラスメートの星野夢子さん。

「するとあなたは王子さまが白い馬に乗ってやってくると信じているんですね」
「ハイ」
「バカなっ!! 世界中探したって何人馬に乗れる王子様がいると思ってんのよ!?」「全世界で100人いないわよ/なんと確率の悪い!」「せめて月収20万 大卒/身長170センチ/メガネなしくらいの条件にとどめといたら?」
「いいえ……心の美しい少女はきっときっと王子様にめぐりあえるのです」「その日のためにあたしの心…汚れなきままにピカピカのままにとっておくの」

夢子の王子様幻想にあきれかえる姫子ですが、彼女もまたリアリストには徹しきれません。「イケメンの義兄と同居」という少女マンガのように都合のいい(実際マンガですが)シチュエーションが舞い込み、その気になってしまいます。理想のボーイフレンドのように優しい義兄を見たクラスメートたちは、「まるで待ってたら木の根っこにウサギがぶつかったようなもんじゃない」「ガツガツ男を漁らなくてもむこうからハンサムでかっこいい少年が『兄』として家にやってきて……」と羨望の眼差し。

しかしこの義兄と義父、再婚を繰り返す詐欺師だったのでした。何が目的でだましたのかと詰め寄る姫子の母に、義兄はこう答えます。「みんな退屈してるんです/くりかえす日常/単調な家庭生活/つまらないじゃないですか/同じ家庭で一生すごすなんて……」「姫子も初恋が一度だけなんてつまんないだろう?」「だからボクは転校をくりかえしそのたびに初恋に出会う」「父は再婚をくりかえしそのたびに新婚気分に出会う……」

この演説を聞いた姫子は怒るどころか、「えらい!」と感激。

「『夢』のために努力する姿……えらい!」
「だまされる女どもが悪いのよ/寝て幸福が転がりこむのを待っているだけ」
「『夢』は『幸福』は行動でかちとらなければ!」

頭でっかちな姫子らしい結論ですが、「白馬の王子様」幻想の終焉はこうした少女たちの自覚から始まったのかもしれません。メルヘン少女が現代において絶滅種となったのは、「白馬の王子様」幻想はメルヘンではなくドス黒い欲望だと少女たちが気づいてしまったからではないでしょうか。しかし夢や幸福を我が手で勝ち取ろうにも、少女たちの前に立ちふさがる壁は余りにも厚かったのです……というわけで次週に続く!

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(文・demi/Beltorchicca 絵・ささこ/おもパン

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