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非モテの文化誌
words by demi/illustration by ささこ バックナンバー
非モテ人間は現代の被差別階級なのか? 異性を発情させるのがそんなに偉いのか? 文学を手がかりに、いっそ、非モテライフをエンジョイする方法を探っていこう! 今回は世界的な超メジャーキモメン、非モテのスタンダード、フランケンシュタインの怪物の登場。

第12回 元祖キモメン、世界を呪う――『フランケンシュタイン』の巻

『フランケンシュタイン』メアリー・シェリー/創元推理文庫
世にキモメンは数あれど、『フランケンシュタイン』(1818)に登場する怪物ほどかわいそうなキモメンはいないでしょう。何しろ一目見ただけで女子が気絶してしまうほどのキショさ。そもそも死体だから脱ヲタしようもありません。現代SFの起源とも言われる『フランケンシュタイン』は、本人にはどうしようもない醜さを抱えた怪物が愛を求めて敗れていく苦悩を描いた作品です。

錬金術を学んだ天才科学者フランケンシュタイン博士は実験の結果、ついに死体をパッチワークして人造人間を創り出すことに成功します。

おお! 人の身であの顔の恐ろしさに耐えうる者はおりますまい。よみがえらされたミイラでも、あいつほどおぞましくはないでしょう。完成前に見ていたあいつ。そのときも醜いものだった。けれどもあの筋肉に、関節に、動く力があたえられたとき、それはもう、ダンテですら思いおよばぬほどの怪物でした。

自分で創っておきながらひどい言いようですが、恐れをなしたフランケンシュタイン博士は部屋から逃げ出してしまいました。あくる日、おそるおそる帰ってみると、怪物は姿を消しています。度重なる疲労とショックで寝込んでしまう博士。

数ヵ月後、病床の博士のもとに故郷の弟が殺されたという知らせが届きます。急いで故郷に戻ってみると、そこには怪物の姿が。犯人はアイツに違いないと確信した博士は、モンブランの麓で再会した怪物から、人殺しに至った哀れな生い立ちを聞かされたのでした。

「人はみなみじめな者を嫌う、だったらどんな生き物よりはるかに不幸なこのおれが、嫌われぬわけがない! だが、わが創り主よ、おまえが被造物のおれを憎み、はねつけるのか。どちらかが滅びぬかぎり切っても切れない縁で結ばれているわれわれなのに。それを殺そうというのだな」
「幸福はいたるところに見えるのに、自分ひとり閉めだされて、どうにもできない。自分は優しく善良だった。みじめさがおれを鬼にした。幸せにしてくれ、そうすれば徳に立ちかえろう」
「人間の大多数がおれの存在を知ったとしたら、あんたがやるように、武器を持っておれを殺そうとするだろう。自分を忌み嫌うやつらを憎まずにいられるか? おれは敵と談判はしない。おれはみじめだ、やつらにもこの不幸をわけてやる。だが、あんたの力でなら、おれに償いをして彼らを禍いから救うことができるのだ」

博士の部屋を出て森の中に逃げ込んだ怪物は、そこで上品で美しく心清らかな一家を発見し、彼らを観察することに喜びを覚えたといいます。彼らのためにこっそり薪を集め、会話を聞いて言語を習得した怪物は、温和で善良な一家ならば醜い自分を大目に見て仲間に入れてくれるにちがいないと信じ、彼らの前に姿をあらわすことを決意したのです。

心はこの愛すべき人々に知ってもらいたい、愛されたいとあこがれた。あのうるわしいまなざしが愛をたたえてこちらに向けられるのを見ることが、自分の窮極の野心であった。

しかし現実は気絶されるわ棒きれで殴られるわで散々な目に。愛を受け入れてもらえなかった怪物は復讐心の塊と化して旅に出ます。途中美しい少年に出会い、偏見をもたない幼い者なら仲良くなれるのではという期待のもとに連れ去ろうするも、少年は大暴れ。さらにその少年がフランケンシュタイン博士の弟だと知った怪物は、自分に苦しみを与えた博士をこの手で絶望させることができるのだ、という思いにとらわれ……。

「子供をじっと見つめているうちに、胸のところに何かきらきらするものが目についた。手にとってみると、たいそう美しい女の肖像画だった。悪意で一杯だった自分の心も、それには和らぎ、魅せられた。しばしのあいだ、自分は喜びの思いでその女の深い睫毛にふちどられた黒い瞳、愛らしい唇に見とれていた。だがすぐに怒りが戻ってきた。こういう美しい者たちがあたえてくれる喜びを、おれは永久に奪われているのだと思い出した。今眺めている似姿のこの女も、自分を見れば、この神々しいまでの慈しみの表情を、嫌悪と恐怖をたたえたそれに変えるだろう」

フランケンシュタイン博士の弟を殺したのは、こういういきさつからなのでした。怪物が博士に望むことはただ一つ、自分と同じぐらい醜いキモ子を作ってくれということ。「自分と同じくらいに醜く恐ろしい生き物なら、自分を拒むことはないだろう。自分の伴侶は自分と同じ種族のもので、同じ欠陥を持たねばならぬ。そういう生き物を創ってもらわなくてはならぬ」「自分のために女を創造してもらいたい。ともに暮らして、生きるのに必要な心の共感を交わせる相手を創ってほしい。それができるのはあんただけだ」。怪物は、願いを聞き入れてくれれば人間の前に二度と姿をあらわさないと約束します。博士は自分の家族を守るために、泣く泣く女怪物の創造に着手したのでした。

しかし実験室で作業を続けるうちに、博士は一つの疑問にぶちあたります。あれほど美しいものに憧れている怪物にキモ子を与えて、恋愛が成り立つのだろうか? さらに女のほうが怪物を嫌う可能性だって……。

女のほうも思考のできる理性ある生き物になるはずだが、自分の創造以前に交わされた契約などには従わないと言うかもしれない。彼らがたがいを憎むことさえありうるのだ。すでに生きている怪物は、わが身の醜さをいとわしく思っており、それが目の前に女の姿で現れたなら、いっそう激しい嫌悪を抱きはしないだろうか。相手もまた彼を嫌って、よりすぐれた人間の美を求めようとするかもしれず、女は去り、彼はまたひとりになって自分と同じ種の生き物にまで見棄てられたと新たな怒りを燃やすことになるかもしれない。

確かに、キモメンがキモ子とつきあって幸せになれるならこの世に非モテの悲しみはないのです。「まあ美人とはいかないまでも、そこそこかわいくて、ブランドまみれの女はこっちから願い下げだけど、清楚で上品なファッションだといいなあ。あと料理が上手で……」。高望みと罵られようとも、それが恋愛欲求というものなのだから仕方がありません。ではそこそこカワイイ怪物を創ってあげればいいのかといえば、そこそこカワイイ怪物は「つーか無理。イケメン創れ」などと言い出すかもしれず、博士は永久に怪物を創りつづけるはめに……。仮にキモメンとキモ子がうまいことラブラブになったとしても、その愛の結晶として殺傷能力の強いキモチルドレンが大増殖したら人類にとって大変なことになってしまいます。博士は恐怖のあまり、創りかけのキモ子をずたずたに引き裂いてしまいました。

約束を破った博士に怪物は怒り心頭。お前の婚礼の晩に復讐してやると言い残して去っていきました。そして従妹エリザベスとの結婚式の晩、たしかに怪物は現れたのです……。

フランケンシュタイン博士と怪物の壮絶ないがみ合いが産み出した惨劇。それにしてもお互い何度もあいまみえているのだからとっととどちらかを殺してしまえばいいのに、怪物は博士の家族や友人を殺すばかり、博士はただただ怒りをぶつけるばかり。まるで大がかりな親子ゲンカを見ているかのようです。怪物は結局、キモ子より造物主である博士に愛してもらいたかったのだろうし、博士は博士で、やっぱり自ら生み出した怪物に執着していたのでしょう。結末近く、怪物は叫びます。

「おお、フランケンシュタイン! 寛容と献身の人よ! 今さら赦しを請うて何になる?」

関わる人すべてを不幸のずんどこに叩き落し、愛される幸せを知らぬまま死んでいったかわいそうな怪物。しかし彼にも救いがありました。映画『フランケンシュタイン』に魅せられ、怪物を探す旅に出た映画『ミツバチのささやき』の主人公、美少女アナの存在です。美少女が怪物と遊ぶ幻想シーンを当の怪物にも見せてあげたかった。世紀のキモメンも有名になりさえすれば美少女が寄ってくることもある。世界も捨てたものではありませんね。

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(文・demi/Beltorchicca 絵・ささこ/おもパン

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