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マンガばかり読んでるとバカになる
words by スズキトモユ/illustration by kashmir バックナンバー
このマンガ好きだったらこの小説読んでみなよー。この小説が面白いんなら、このマンガ、絶対おすすめ。そんなふうにおもしろい本の世界を倍々でひろげていきます。第9回は、透け透けスケルトンな小説とマンガを!

第9回 彼氏彼女は透けルトン ――岡本一広『トランスルーセント 彼女は半透明』

もしも人間が透明になれたら? そんな荒唐無稽なことを思いついたのは、SF小説の父親、H.G.ウェルズ。いまだ荷馬車が闊歩する時代に、80万年後の未来に行く物語だの、火星人が地球に攻めてくる物語だのを書いたのですから、その想像力たるや、尋常ではありません。そんな彼が1897年に発表した『透明人間』がすべてのはじまりでした。
(各社から出ていますが、今回は講談社青い鳥文庫版をとりあげました)

『透明人間』H.G.ウェルズ/訳:福島正実 桑沢慧/講談社青い鳥文庫

さて、ウェルズの『透明人間』。これは透明人間ものの先駆けにして、すでに完成形といえる、すごい作品です。
包帯でぐるぐる巻きな透明人間は元科学者。光の研究にのめりこんでるうち、物質を透明化する方法を発見した若きマッドサイエンティストだったのです。自分の身体を実験台にして研究を完成させた透明人間ですが、物質透明化装置の秘密は自分だけのものにしなくてはなりません。装置を徹底的に壊し、研究ノートを束にまとめると火を放ちご丁寧にガス栓までひねり、下宿ごと灰にしてしまいます。な、なにゆえ!?
透明人間、行動原理がさっぱり読めません。そんな彼の後先考えなさっぷりはさっそく露呈します。時は一月の終わり、そろそろ吹雪のはじまる季節。冬のロンドンはまっぱだかでいるには寒すぎるのです。閉店後のデパートにもぐりこみ、人心地をつけた透明人間ですが、いつもの癖で服を着こんで寝入ってしまったため、出勤してきた従業員に見つかり、デパート中追いかけまわされます。まぬけすぎです。
ここまでくると、いくらひどい目にあおうと、たいがい自業自得にしか思えません。そんな透明人間ですが、犬っころのように追い回されたことでプライドが傷つけられたのでしょうか、こんどは「透明人間として恐怖政治を行うのだ!」などと宣言します。要は透明なボディという利点を生かし、無差別人力テロに出ようというわけです。こ、これは、「マッド科学者の逆ギレ」! マッドな科学にのめりこみ、ダークサイドに囚われた挙句、正常な判断を失ってしまった男の悲哀をここに見ることができます。ウェルズはさすがだねえ、という結論でありました。

そして、透明人間もののもうひとつのパターンとして、「エロ妄想実現もの」があります。

『インビジブル コレクターズ・エディション』(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
稀代のエログロ監督、ポール・バーホーベンが撮った透明人間映画『インビジブル』も男の欲望全開なそんな作品でした。ケヴィン・ベーコン演ずる天才科学者が自らを透明人間に変えてしまうくだりはウェルズ『透明人間』と同じ、ただし、彼は世界を支配しようとは考えず、同僚女性の乳を揉んだり、女子トイレを除いたりするのです。透明能力を利とする点は共通していますが、どこまでもどこまでも低い志がポイント。
しかしまあ、透明人間ってじつはこれぐらいのレベルの能力なのかも。だって、見えない人間が世界征服をしようとしてもどれだけのアドバンテージがあるのかよくわかんないけど、隣の女の乳は揉めそうでしょ。透明人間って、けっきょく男の妄想が生みだした存在なのかしらん、とも思うのでした。
ちなみに、マンガでは、中西やすひろの『Oh!透明人間21』、山田こうすけの『透明社員』なんかがあります。こちらはお気楽エロな2作ですね。

『トランスルーセント 彼女は半透明』岡本一広(1巻〜)/メディアファクトリー

今回紹介するマンガ、『トランスルーセント 彼女は半透明』は上の例にはあてはまらない透明人間もの。いわば「難病克服もの」というべき新パターンなのであります。
健康面には問題ないけれど、身体の一部が、症状が進めばそのすべてが透明になってしまうという「透明病」。中学生・白山しずかは「透明病」の症状に心悩んでいた。彼女のクラスメイト・唯見マモルはそんな彼女の支えになろうと、不器用ながらも一生懸命な頑張りを見せるのですが……。
ここにあるのは「もしも、世界から忘れ去られたら」という不安に揺れ動く思春期の心。演劇好きなしずかの透明になってしまった身体に、美術部のマモルがドーランを塗ってあげるシーンは切なく心に響きます。
前述の2パターンと大きく異なるのは、望んでなったわけではないし、透明人間になるメリットを生かそうなんて露とも思わないこと。普段は気弱だけど、舞台に立つのは大好きなしずかさんにとって、透明化はデメリットでしかないわけです。これはまた、自らの存在、生に対して向かい合わなければならないことを意味しているわけで、生命には別状がないとはいえ、これは一種の難病ものと捉えてもよさそうです。
そう考えると、バラード『結晶世界』、久美沙織『真珠たち』、有川浩『塩の街』あたりの、奇病が蔓延する世界を描いた小説のほうがむしろ近いかもしれません。

今回、ちょっと変則的に小説→映画→マンガと紹介してみました。あれこれ読んで思ったことは、女の透明人間ってやることなさそうだなあということでした。透明人間って、やっぱり男の欲望ジャンルなのですね。『透明人間』と『トランスルーセント 彼女は半透明』は似て非なるもの。やはり透明と半透明はちがうのだ! で決まり!(そんなんでええのだろうか)

本の妖精トモトモ

(文・スズキトモユ/見下げはてな 絵・kashmir/lowlife

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